2022.07.04

【報告】演劇ワークショップ@東北大2日目を実施しました

東北大学と連携した在学生向け演劇ワークショップ全2日が終了しました。このプログラムはRISTEX(社会技術研究開発センター)が進めるSDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラムの一環で行っているものです。東北大学大学院医学系研究科教授虫明元先生が主体となり、当団体が協力団体として関わっています。事業タイトルは「演劇的手法を用いた共感性あるコミュニティの醸成による孤立・孤独防止事業」となっており、具体的に当団体は大学生に向けた演劇的手法を用いたコミュニケーションワークショップを行い、研究過程の中でアートの視点からアドバイスや提案を行っています。

※前編レポートはhttps://playartsendai.com/archives/961をご覧ください。

【概要】
実施日時:2022年6月27日(月) 13時ー14時半 90分 (全2回)
実施場所:東北大学内
対象:東北大学1年生学部間共通 33名
ファシリテーター:大河原準介(演劇企画集団LondonPANDA)
コーディネーター:及川多香子(PLAY ART!せんだい)

2回目となる今回も、導入は「仲間探しゲーム」から始まりました。自分と同じ属性の人をみつけ、グループを作っていくというものです。生まれた月、学部、血液型など、言葉を発していいときもあれば、ジェスチャーや口の動きだけ(この時だけ一瞬マスクを外すことがあります)の時もあります。
このゲームは自分から発信(伝え続けること)することと、相手が発信していることに耳を傾け発信を受け取ることを同時に行わないと、仲間が見つかりません。特に「ジェスチャーだけでね」という条件が加わると、どうにかこうにか動きながら自分の属性を発信し続けます。仲間が見つかると、伝える人が増えていくのでいいですが、最後まで自分一人で探し続ける場合もあります。更に、大河原さんが選ぶお題は「一生変わらないもの」ばかり。趣味趣向を聞くことがあまりないので、仲間が見つからないからといって途中で変えることもできないのです。
この導入では伝えることと受け取ることの面白さや、伝える方法にも色々あることをゲームを通して体験していくのです。

今回のプログラムのメインワークは「ひとこと創作・発表」でした。2-3名のグループに別れ、1人につき「ひとこと」だけセリフを言います。

大河原さんからはこんな例が提示されました。

登場人物A「時間」

登場人物B「もう?」

この例は実際に大河原さん自身が参加したワークショップで体験した例だそうで、この2つのセリフから想像できること、この2人の関係性、これから展開されることの幅広さなどに大河原さん自身も驚いたそうです。


学生たちは、短いセリフだけで成り立つ会話には何があるだろうと考え始めます。
また動きをつけることで、セリフが持つ意味が限定されていくことに気がついていきます。例えば、3人のグループは下記のような設定にしました。

登場人物A (フライパンのようなもので料理をしている)
登場人物B (寝そべってテレビを見ている)「まだ?」
登場人物C スマホをみているが「手伝う」といってAに近寄る

このグループの発表の後、大河原さんが「誰が」「何をしている」場面か、見ていた学生に聞いていきます。そうすると大抵の学生は「3人家族、夕飯時、お母さんが料理をしていて、お父さんはテレビを見ている」という設定を当てます。

ここで大河原さんが学生に問いかけます。「なんで夕飯って分かるの?朝食でも昼食でもない、セリフに時間のことは入っていなかったね?」
学生たちは、たしかに、当たり前に夕飯時という風に見えていたけれど、それがどうしてかと聞かれると説明に困ってしまいます。

大河原さんは続けて「これをコンテキスト、日本語では文脈と言います」と学生に説明を続けました。
「そのセリフがどの文脈の中で使われるかによって、想像できること、みんなが共通認識として思い浮かべるものが変わるのが面白いですね」

学生たち同士で発表を見合い、意見を言っていくうちに、このコンテキストや共通認識が、少しずつズレていることに気がつきます。

「自分は〇〇のようにしか見えなかったのに!他の人は思いもよらないものに見えていた」こういった感想を振り返りでは聞くことができました。

このズレがあるからこそ、人間同士のコミュニケーションは複雑で面白い、意思や認識は、伝える、受け取る、のくり返しで徐々に歩み寄っていくものなのだというメッセージこそが、今回2回を通してのワークショップで伝えたかったことなのだそう。2回のワークショップは大河原準介さんのテンポのよいファシリテーションで充実した時間となりました。

大学生の孤立孤独は大学内でも深刻な課題となっているそうです。友達ができない、繋がりがもてない学生生活が続くと、単位取得に影響があったり、メンタルヘスに支障をきたし、退学してしまう可能性もあるそうです。オンライン授業が増え、リアルに会って学生同士が関わり合いを持つ機会が減る中、演劇的手法を使った取り組みを孤立孤独防止に役立てていきたいという今回の事業は、今後もPLAY ART!せんだいとして積極的に取り組んでいきたいと思います。(及川)