2024.01.19

共につくる子どものための演劇プログラム参加者レポート【前編】

PLAYART!せんだいが2020年から進めてきた「演劇教育プロジェクト」では、ワークショップファシリテーター育成を目的に、通算3回目となる「共につくる、子どものための演劇プログラム」を開催しました。これは、演劇教育の普及の伸びしろに溢れた「仙台・宮城」において、演劇関係者だけでなく、教育者をはじめ子どもに関わる多様な人と、演劇的手法を使った子どものためのプログラムについて考え、その価値やノウハウを共有しようというものです。

今回の開催にあたっても、多種多様なバックグラウンドを持つ参加者が集まりました。ファシリテーターの田野邦彦さんからは、ワークショッププログラムをつくる知識や言葉の定義の説明のほか、グループワークを通してプログラム作りの面白さを伝えていただきました。


開催報告として、参加者の一人である佐賀柊咲さんに2日間のレポートをまとめていただきました。佐賀さんは普段、居場所づくりのボランティアや講演活動の中で、様々な問題を抱えた子どもたちと接する活動をされています。2日間の学びが蘇るようなレポートとなっています。前半と後半の2回に分けてお届けします。

共につくる子どものための演劇プログラム概要


2023.10.8(日)13:00~18:00
2023.10.9(月・祝)10:00~16:00(休憩60分)

ファシリテーター:田野邦彦
会場:東北大学青葉山キャンパス 青葉山コモンズ
対象:子供の教育・学びにかかわるお仕事をしている方やアーティスト
参加者数:13名
主催:PLAY ART!せんだい
共催:東北大学医学部「JST・RISTEX 演劇的手法を用いた共感性あるコミュニティの醸成による孤立・孤独防止事業」

伝える手法を増やしたい/佐賀柊咲

私は普段から、様々な手法で「生きづらさ」「個性」「自分らしく生きる」「居場所」について伝える活動をしている。そのため「伝えるための手法」のレパートリーを増やしたいと思い、参加を決めた。ワークショップに参加する前は、演劇は観るものという認識があった。演劇ワークショップは舞台や演劇関係者のためだけのものなのではないか、という不安も持っていた。

1日目

13時開始だったが、交通機関の影響で遅れる参加者が何名かいた。そのため、ファシリテーターからの提案で参加者が揃うまでの間、いくつかのゲームをして待つことになった。

★名前のワーク
①  参加者が円になって立つ。
②  一番左の人が、右隣の人の前に立ち「●●です」と名乗る。
③  相手も「●●です」と名乗り、お互いに名乗り終わったら「よろしくお願いします」と言って、握手をする。
④  これを時計回りに繰り返す。

★3本の指のワーク
①  3人グループを作り、三角形で立つ。
②  人差し指を立て、人差し指の爪を全員が合わせたまま、会場内を散歩する。
③しばらく、②の状態で散歩した後、爪を合わせたまま、3本の指を合わせた上に缶バッチを置いて、落ちないように散歩をする。

出会ったばかりの関係性で実施するため、少しぎこちないものになると思っていたが、どちらも身体を動かすものであったため、参加者同士、掛け声をかけ合うなどして自然とコミュニケーションが発生していた。そして、ゲームを実施して待っていることで、遅れてきた参加者が「ゲームに混ぜて~」という感覚で自然に合流できたことが、とてもフラットで良いなと感じた。

参加者が揃ってからは、改めて自己紹介(名前/呼ばれたい名前/このワークショップでどんなことを実現したいか)をした。初日の参加者は13名で、半数が教育関係者、残りの半数は図書館関係者、文化施設職員、サラリーマン、農業従事者など多様で、演劇関係者は意外にも1割程度だった。自己紹介のあとは、ファシリテーターからスライドを利用して、以下のような基礎知識の説明があった。

ワークショップの定義

WORK SHOPとは、直訳すると作業場、工房という意味だが、学び/創造トレーニング手法、

最近では「参加体験型学習」という意味としても使われる。
演劇的手法の定義とは、
①  プロセスの中で合意形成のプロセス(正解のない答えをみんなで作る過程)を経ているか。
②第三者に向けた発表が行われているか。
基本的には、この2つを抑えていれば演劇的手法を活用していると考えられる。


次に、4~5名のチームを組んで、「おまんじゅう」というゲームを実施した。

ワークの順番の重要性

★おまんじゅう
①  円になって立つ。
②  右手をグーのおまんじゅう、左手をパーでお皿にする。
③  自分の右手のおまんじゅうを右隣の人のお皿へ、それぞれ乗せる。
④ファシリテーターの合図で、右手と左手の振りをチェンジするが、チェンジする前に自分たちで考えた振り付けを入れる。
⑤制限時間3分で振り付けの考案と、ファシリテーターの提示した回数を連続でできるように練習する。
⑥それを各チームで発表する。

私たちのグループは、初対面独特の遠慮もあり、「どんな振り付けなら全員ができるか」を重視して、誰にでもできることと、連続でできることを前提に振り付けを決め、練習に時間を割いた。
このゲームの面白いと感じた点は、各グループで発表して終わりではないことだ。発表後グループごとに、振り付けを決めた過程を振り返り、参加者それぞれの現場で活用できるかどうか検討した。振り付け決定までの過程を振り返ってみると、演劇的手法の定義の説明にあった合意形成のプロセスというものは、実は特別なものではなく、日常で他者と関わる際に自然と行われていることに気がついた。 

次に同じグループメンバーで「寄せ鍋」というゲームを行った。ゲームを行う前にファシリテーターから「本来は寄せ鍋のゲームをしてから、おまんじゅうをするようにしています。その理由も考えながらやってみて下さい」という説明があった。

★寄せ鍋
①ファシリテーターから各自に1枚ずつカードが配られる。
②  チームで見せ合う。
③  その食材を全て利用して、世界一おいしい!と思う1品料理を考える。
④  料理名には食材名を入れても入れなくてもOK。
⑤  定食などではなく、全ての食材を利用した一品料理にすること。
⑥  決定した後は、料理名だけをチームごとに発表する。

このゲームのポイントは、「使いづらい食材があること」だった。私たちのグループは、全員のカードを見せあった時点で、スイーツ系にしようということ、こんな料理名にしようということまで決まりかけていた。しかし突然、ファシリテーターが、もう一枚私たちのグループにカードを配り、事態が急変した。そのカードは「豚肉」であったため、全員がこのカードを活かそうと必死に方向転換に徹した。しかし、このハプニングこそが、面白いと感じた点だ。使いづらい食材が入っていても、全ての食材を使った一品料理にしなくてはならないというルールがこのゲームにはある。そのため、自然にチーム全体が相手を活かすことを意識する。

発表するのは料理名のみという点も面白いと感じた。自分のチーム以外の人のカードを知ることがないため、「●●って、どんな料理だろう?」「一体、何が入っているのだろう?」と、聞き手側の興味がそそられる。これこそが、この寄せ鍋ゲームのポイントでもあるという。発表を観る側の姿勢で、発表する側の質も変化するということだった。 また「寄せ鍋」→「おまんじゅう」の順に行うのは、寄せ鍋ゲームで一人一人の持ち味を活かすプロセスを通ることで、おまんじゅうゲームのアイディア出しがスムーズに進むのだそうだ。おまんじゅうゲームはオリジナルの振り付けを考え、他の参加者に観てもらうことで、達成感を得やすいというのもポイントだった。

ワークのテーマを考える

寄せ鍋ゲームのあとは、また新たに3人グループを作り、対象別、課題解決別にどんなワークショップを設計していくか、ファシリテーターへの質問をチーム内で話し合い、発表した。「小学3年生に特化したワーク」「読書啓発ワーク」「固定概念を和らげるワーク」「他文化/異年齢でもできるワーク」など、発表されたワークは、どれもとても興味深かった。

ここまでワークショップを作る際のゲームの活用方法、ゲームを活用する際のポイントを体験型で学んできた。この時、参加者が自ら知りたい!と思うワークを発表しあったことで改めて、参加者が様々な立場で抱える課題や問題を解決したい、糸口を探りたいと、このワークショップへの参加を決意したことを感じた。
いくつか出たワークアイディアの中から「他文化/異年齢でもできるワーク」について、プログラムに役立つという「三角歩きゲーム」を体験した。

伝えたい、伝わらない、を体験する

★三角歩きゲーム(1回目)
①3人でチームを組む。
②それぞれに1~3の数字が割り当てられ、三角形になるように立つ。
③お互い手を合わせて会場を散歩する。

★三角歩きゲーム(2回目)
①基本的なルールは1回目と同じだが、ファシリテーターに呼ばれた番号の人以外は目を閉じて移動する。
②目を開いている人が、目を閉じている2人を誘導する。
③目を開いている人だけは、声を出してもOK。

このゲームは初日に行ったゲームの中で、唯一不安なゲームだった。割り当てられた番号を呼ばれない限り、目を開くことができない。また、自分の声掛けや誘導を間違えてしまうとほかの人が障害物や他チームにぶつかってしまう可能性もあるため、的確に指示を出す必要がある。ゲームが進むにつれて、障害物が常に一定の場所にあるわけでもない。そのため、必要以上にチームメイトの不安を仰がないように、常に冷静な判断が求められる。

こうして言葉にすると、意識さえすれば簡単なのではないかとも感じる。しかし例えば、前方から徐々に下がりながら移動してくる棒状の障害物を避けるために、「Aさん、しゃがんで!」と指示を出したとする。すると、AさんはAさんの中での「しゃがむ」という行為を実行する。しかし、この「しゃがむ」という概念が、指示を出した側と受ける側で異なっていた場合、しゃがんだ結果の高さも、しゃがみ方も、タイミングも、指示を出した側の意図とは絶妙に食い違ってしまう。

私は、このゲームで目を閉じている時、災害時の避難が頭をよぎった。もしも、言葉も育った環境も異なる人と一緒にいる時に災害に遭ってしまったら、その時に求められるのは、こういうことなのではないだろうか。その時、どのように行動すれば良いか、それを考え実感するためにも、まさにこのゲームは「他文化/異年齢でもできるワーク」だと感じた。

このゲームのポイントとしては、ファシリテーターから同じ15分でもそれぞれが違う感覚を体験できるように、番号を呼ぶ順番を1→2→3、2→3→1にしているという説明があった。
1番:次の順番が来るまで長く、長い間、目を閉じていなければならない。
2番:1番の人の指示を経て、反面教師にできる。
3番:何が起きているかが 分からないままゲームが進む。

「他文化/異年齢でもできるワーク」について残り時間で取り組むと説明された時、ここまでのゲームがウォーミングアップやレクリエーションで、一気に本題として難しい話になるのかもしれないと思った。そのため、またゲームをすると説明された時には、正直あまりピンとこなかった。しかし、実際に体験してみると、手法として活用するものがゲームでも、内容や組み立て方次第で、目的に合わせた「ワークショップ」として成り立つ、ということを学んだ。

その他のワークショップも、どのような工夫ができるかとても興味深かったが、時間の都合上、全てのワークに取り組むことは出来ないため、各チームから発表されたワークから以下3つのワークが厳選された。

①  図書館で実施する読書啓発ワーク
②  孤独や孤立を抱える人が希望を持てる、行ったら変わるかな?と思えるワーク
→生きづらさを(少しだけ)やわらかくするワーク
③  小学校の授業で行うワーク

2日目は、参加者が上記から取り組みたいテーマをそれぞれ選択し、実際にチームごとにそのワークショップを作っていくということが説明され、初日のワークショップは終了した。

(前半はここまで!後半に続きます)