2021.05.25

現場のうぶごえ|演劇教育PJレポート大河原準介さん

〜仙台市文化プログラム演劇教育プロジェクトファシリテーターレポートその1〜

2020年から当団体は演劇教育の発展に取り組んでいます。これまで断片的な取り組みが多く教育の定着まで至っていない現状を変えようと、教育に関わる方々とアーティストが対等な立場で知恵を出し合い、仙台から生まれる演劇教育の発展を目指して走り始めました。この企画のファシリテーターを担った大河原準介さんのレポートです。

 「仙台に演劇教育を!」という思いがようやく結実した(もしくは、しかけた)このプロジェクトは、共同代表である二人の念願であったに違いない。及川多香子さんは大学時代より応用演劇や演劇教育について触れていたし、 また、大河原芙由子さんも演劇教育に関する書籍で棚を埋めていたので、PLAY ART!せんだいとしてやりたかったことの大目標の一つであったと思う。
オンラインのトークセッションや平田オリザさんをお招きしての講演会とワークショップで仲間たちとも出会い、非常に有意義な時間をご一緒できてうれしかった。 

 特に「共につくる」プロジェクトでは、現役の先生や大学生も参加するなど、これまであまり出会えなかった人たちと、一緒にプログラムを考えて試していくという新しい試みが強く印象に残っている。
僕は演劇のプロだとしても教育のプロではない。参加者は逆の立場にある。お互いに補完し合うように、演劇をどのように教育と掛け合わせていくのか。そのやりとりが刺激的だった。ワークショップのプロ、として多少はリードする立場にいたけれど(実際、ファシリテーターとして参加したので)、僕にとっても得るものが非常に多く、机上のものが証明されていくような、そんな感覚にあった。 

演劇教育のプロ、と呼べる人を僕は仙台では知らない。僕もそうだし、参加者もそうだった。その両者が一緒に演劇教育を考える場所ができたのは、非常に画期的だったのではないだろうか。

ファシリテーターとコーディネーターが現場をつくるには

 仙台に活動拠点を移して5年。演劇教育に限らず、さまざまなワークショップを開催するようになった。それは中堅と呼ばれる年齢になったことや、仙台演劇界の底上げを本気で考えていることもあるが、それよりも演劇という「おもしろい企て」の認知度向上が、一番の目的であった。が、しかし、そ の目的はここ数年変化してきている。 

 演劇を知ってもらうことよりも、演劇を使ってもらうことの方が、幸せだと思うようになったのだ。 (もちろん、副産物的に演劇を知ってもらえればさらに幸せなのだが)教育はもちろん、福祉や医療、 ビジネス、あらゆる現場で演劇が使われていくことが、楽しくてワクワクする。
実際に用いられた実例を基に、現場ごとにプログラム構成を考えて、新しいワークを作っていく作業は、創作と違った面白さがある。導入さえしてもらえれば、さまざまな場面で役立てることができる確信はある。しかしながらそのハードルがなかなか高い。乗り越えるために、コーディネーターの存在は欠かせないと思っている。 

※プログラムコーディネーター企画の立案、資金獲得、プログラムニーズの調査、ファシリテーターの選定など調整を行う役割。

※プログラムファシリテーター=演劇ワークショップなどのプログラムの内容を、実施先に合わせて組み立て、当日のファシリテーションも行う。主にアーティストが行うことが多い。

 ファシリテーターだけでなく、コーディネーターと協働して、企画を、現場を作っていく。そこでの情報は拡散され、次の企画につながっていく。それを地道に繰り返していくしかないのだが、担当者が代われば関係性もリセットされてしまう。学校や自治体は特にそのパターンが顕著なのではないだろうか。先人達も幾度となく演劇教育の現場を作ろうとアクションを起こしてきたが、残念ながら定着はしていない。 

共につくる、新しい波

 今回の「共につくる」が画期的であったのは、教育のプロを演劇教育のプロにしてしまおうという発想の転換にあると思う。演劇教育が普及していけば、自ずと演劇のプロにも現場が作られていく。演劇側のことしか考えていなければ、持続も定着も普及も難しいのではないか。という仮説を立証するアクションとも言えるだろう。この動きを演劇側のコーディネーターが仕掛けたのが面白い。過去の経験上、ワークショップというのは参加して満足してしまう人が半数以上だ。次の行動につながるように、コーディネー ターの次なるアクションにも期待している。そして、必要あらばファシリテーターとして、新しい波に一 緒に乗れたら嬉しい。 

 今回の企画で、小さくも確かにうぶごえは聴こえた。まだ抱き上げていないし、どんな子になるのかなんてまだ分からない。しかしながら大切に、丁寧に、一緒に育てていけたらと願っている。 

大河原準介(劇作家・演出家 演劇企画集団LondonPANDA)

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