2021.09.01

演劇教育が根差したまちへ|演劇教育PJレポート菊池佳南さん

〜仙台市文化プログラム演劇教育プロジェクトファシリテーターレポートその1〜

2020年から当団体は演劇教育の発展に取り組んでいます。これまで断片的な取り組みが多く教育の定着まで至っていない現状を変えようと、教育に関わる方々とアーティストが対等な立場で知恵を出し合い、仙台から生まれる演劇教育の発展を目指して走り始めました。この企画のファシリテーターを担った菊池佳南さんのレポートです。

PLAY ART!せんだい(以下、PAS)による、演劇教育プロジェクトのファシリテーターへの依頼があった時、学生時代からぼんやりと夢に描いていた「自分の地元で、芸術が社会に役割を果たす仕事」に携わるきっかけを与えて貰った喜びが湧いた。それと同時に、ほぼゼロからの出発ゆえに一体何から始めるのか?自分は何ができるのか?これからどう展開するのか?真っ新な仕事を前に、正直をいうと、一瞬途方に暮れた。

そんな私だが、PAS共同代表二人の大きな推進力に突き動かされ、新しい出会いと共に、今までの私の現場経験を改めて振り返る一年になった。

仙台で取り組むということ

大学時代に社会包摂としてのアートを学び、その後は東京を拠点に、全国の小中高校で演劇を用いたコミュニケーション教育の現場にアシスタントとして参加していた。そこで演劇が教育現場でもたらす効果や、子供たちの喜ばしい変化を目の当たりにしてきた。その有効性や必要性は非常に強く感じていたが、実際にその現場を創成することは、そう簡単なことではない。ましてや私自身は、すでにある程度は演劇教育へ理解が浸透した、確立している現場で経験させて頂いていたからだ。

オンライン会議システムを利用したトークセッション「カタルバオンライン」では、オンラインである強みを最大限に利用し、仙台のみならず宮城県内外から広く関心のある方が集まり、踏み込んだ意見や情報を交換し合ったことに、このプロジェクトの源流点を見た気がして静かに興奮した。また、我が師でもある平田オリザ氏の講演会&ワークショップでは、仙台における現状に焦りすら感じ、今後の演劇教育が担う役割の大きさを強く再確認した。

とはいえアートと教育の相互性が根差す街になるには、一朝一夕というわけにはいかない。そんな中行われた、教育、アートの両方向からの様々な参加者との「共につくる」プロジェクトは、私自身が今までの経験を整理し考える素晴らしい機会にもなった。

参加者全員が、実際に学校現場で実施することを想定したプログラムを作成し、そのプログラムを受講者同士が体験し合い、フィードバックをする。どういった状況が生まれ得るか、またどう対処するか、どう感じたかをディスカッションする。とても創造的で、建設的な時間だった。〝画餅〟かもしれないが、その光景こそまさにアートと教育が相互作用を起こしているように見えた。

ひっそりと輝く子にこそスポットライトを…

プログラム作成のたたき台として、私がアシスタントやファシリテートを経験した学校現場での演劇プログラムを、思い出せる限り全て書き出した。それぞれの学校現場で出会った子供たちの反応が脳裏に蘇った。グループ創作でリーダー力を発揮し始めた子、いつもは輪から外れてるが面白いアイディアを思い付く子、練習をめんどくさがった結果、発表でうまくいかず、周りに刺激を受けほんの少しやる気を出す子、それまでほとんど声を出さなかったのに、発表では堂々と台詞を言って面白い役を演じ、みんなが一目置くようになった子…家族でも学校の先生でもない、「俳優」や「ワークショップファシリテーター」という役割を持った、〝他者〟としての私との出会いは、子供たちにとってほんの一瞬の出来事だったかもしれない。でも私は幾度となく、彼らの変化の瞬間を目撃することができたことを思い返した。

そんな瞬間を見つけたら、輝いていたことをそっと教えてあげたい。できれば一度きりでなく何度も継続してそんな瞬間を用意してあげられたらいい。そのためには、私たち演劇教育の普及を目指す大人も、この動きを長く継続しなければと今は感じている。

PLAY ART!せんだいの一連の取り組みは、アート側の人材と教育側の人材が双方ゼロから演劇教育を考えている。だからこそ、他に類を見ないような親密な関係を構築できるのではないだろうか。〝画餅〟だとしたら、とびきりの理想画を共に描きたい。演劇教育が深く根差すまちへ、願いを込めてこれからも進んでいきたい。

菊池佳南(俳優/青年団)