2021.09.08

これから対話を続ける土台作り〜演劇と教育カタルバオンライン#1〜

2020年の演劇教育プロジェクトを振り返るレポートシリーズ第三弾です。演劇と教育、携わる者同士が多様な視点から2つの接点と可能性についてフレキシブルに語り合うオンライン座談会を実施しました。毎回テーマに沿ったゲストをお招きし、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使いながら、グループディスカッションと全体共有では活発な議論が展開されました。


【開催概要】
2020年7月4日(土) 16時〜17時半
テーマ 「こどもを取り巻くこれからのコミュニケーション」
ファシリテーター 菊池佳南(青年団)、大河原準介(演劇企画集団LondonPANDA)
ゲスト 加藤みつる(カラフル学舎)
参加者数 12名


※このレポートでは当日の発言記録をご紹介します。

カラフル学舎加藤みつるさん(右)


加藤:皆さんこんにちは。今日は演劇教育・コミュニケーションについて、皆さんで集まって議論をというところですが、カラフル学舎というのは大崎市にありまして、「震災のボランティア」という形からスタートした塾です。

そこからオンライン、インターネットなどを取り入れながら運営しており、

「オンラインってどうなの?」「リアルで直接会うってどうなの?」ということを問題意識と捉えて試行錯誤しています。

今回のコロナ禍という時に、どうやってオンラインと向き合っていくかを考えながらなんとか乗り切っています。

オンラインを通じてのコミュニケーション、学校再開後のリアルの場でのコミュニケーションなど、そういった所で私がお話出来る所があればと思います。


Topic1『オンラインでのコミュニケーションのイメージ』

(ブレークアウトルームにてグループに分かれディスカッション)


佳南:それでは共有の時間に参りたいと思います。『オンラインでのコミュニケーションは相互のコミュニケーション・やり取りが無い。相互のやり取りが必要な時にどうしたらいいのか。』について発言者の方から共有をお願いします。


参加者A:私が今やっているのは作った物を配信して受け取ってくれる人に届けるまでしか出来ていないのだれども、実際に他の授業とかの話で「相互のやり取り」、「発信する側」と「受信する側」のコールアンドレスポンスが必要、それが求められる事がある。それをどうしたらいいのかなと悩んでいる。


佳南:加藤さん、どうでしょう?


加藤:相互のコミュニケーションというのは確かにおっしゃらる通り難しい所はあると思うんですけど、うちの塾の場合は、授業の時は授業という形である程度割り切る形でこちらが提供するスタイルをやっていて、一方でLINEで常に質問とかリアルタイムで出来るような体制を作っています。そうすると授業の流れは一定のペースで進む事ができるし、一人一人が困った時の状況を把握する事が出来ます。(Zoomの)チャット機能も結構使っていて、生徒によっては喋るのが苦手な子でも、チャットだとよく喋る子もいるんですよね。

だからその辺を上手く生徒によって対応を変えてあげると、活発なやり取りが生まれるかなって感じですね。


佳南:なるほど。オンラインが得意な子、オフラインが得意な子がいると。


加藤:その子にとって喋りやすいのはなんなのかを探してあげるのは、最初の段階で必要なのかもしれません。


佳南:『オンラインに対して自分が積極的にならないと難しい』と、参加者Kさんから出ました。


参加者K:スイッチの入れ方が大人でも難しいなと思いました。例えばお子さんがいるご家庭であれば、お子さんが泣いてしまえばお子さんの所に行くし、子どもがいない環境でも、日常の事が忙しかったりすると、それを片手間にしながらになって、難しいと感じたり、子どもだとさらに難しい。


佳南:加藤さん、オンライン授業をやる時子どもたちの集中ってどうやって保ってますか?


加藤:オンラインならではのことを取り入れました。、zoomの『ホワイトボード機能』などに皆で自由に書き込んだり、オンラインインプロなどもやりました。授業の途中にミニゲームみたいなものを盛り込んだりしてメリハリをつけたり、あと時間にすごく気を付けました。25分やって5分休むという『ポモドーロ勉強法』というのがあるんですけども、『集中力が切れたらきっちり休む。それまでは頑張ろう!』というの意識していましたね。


佳南:疲れに対しての対処はどうしていましたか?


加藤:休憩を大事にしていました。


佳南:「オンラインだと、ミュートにしたりして相手の相槌が分からない。相当緊張する。」という意見もありますね。


野口:色んな環境でオンラインやってる方がいるので、例えばミュートにしなければならない時があると思うんですけど、普段会って話す時って自然と相槌が入ると思うんですけど、オンラインだと急に壁が出来てしまう感じがして、私はそれが結構緊張しちゃうんですよね。でも画面を見て分かるように動いたりアクションしたりすると安心するなって思います。『相槌』ってすごく大切なんだと思いました。


佳南:演劇をやってると、空気を使う芸術なので、どうしても人と喋った時に「声」や「顔」の情報以外の情報ってだいぶ伝わるじゃないですか。Zoomだと伝わらなかったり、今皆さんが頷いてくれる「視覚」だけが頼りじゃないですか。加藤さん、授業の時は子供達のリアクションをどうやって捉えてるんですか?


加藤:最初は顔を出してる生徒がよくいたんですよ。そこでなるべくリアクションを取るようにしていましたが、そのうち顔は出さずに名前だけ表示する子が増えてきて、その時は『反応ボタン』を使って遊んだりして、「相槌振ってよ」というタイミングを作って、コミュニケーションのキャッチボールをしました。オンラインは大人でも子どもでも緊張するものです。


及川:オンラインは私も緊張します。リアルに初対面の方と会った時に、靴は何を履いてるかとか、どれくらいの背の高さとか、その人が持っている雰囲気とか、どこから会話をすればいいのか、自然に考えてるんですけど、その情報が全く飛んでこないとどうやって間合いを詰めていいのか、一気に不得意になり、それで緊張するというのを最近感じるようになりましたね。

それから参加者Kさんの『双方向』の話で、加藤先生がどうやってオンラインの子どもを引きつけるかという所で、加藤さんと打ち合わせをした時に、『自分頭よくなりたい!』『勉強をしたい!』というモチベーションがあると、授業という情報を取りに行く姿勢になっている。そういう「フック(取っ掛かり)」があるからいいけど、そうじゃない子もいて、何をフックにするかも大切ですね。

佳南:『オンラインでやっていく中で、子供達の集中が切れる事があった。オンラインが始まる前まではどうだったんだろう?オンラインのおかげで家族の生活リズムが逆に良くなった。』という事でした。

参加者L:私の小学生の子が授業が13時〜14時までオンラインでやっていて、中学生の子が16時〜18時まで。それが始まる前はお昼になったらご飯を食べるみたいな感じだったんですけど、オンライン授業が始まってからは、ちゃんと授業に間に合うようにご飯を食べ終えたり、とても良いリズムが出来たんですね。お兄ちゃんの授業が終わったら夕食を食べて、19時半からまたオンラインで勉強が始まるので、それに合わせて先にお風呂に入るみたいな『リズム』が作れたので、とても良かったです。


佳南:参加者Lさんは加藤さんの授業を受けていらっしゃいいますね。


加藤:ありがとうございます。実際午後の13時から18時までを授業の時間にしました。その後、夜の19時半〜21時半までを『自学タイム』という名前で課題をやる時間として毎日解放してたんですね。生徒達には毎日来て欲しいと。

そういう意味では、例えば塾のイメージだと週に1回とか2回通塾という所もあると思うんですけど、直接は会えていないけど毎日生徒と会っているという感覚があったので、生徒の変化にも気付きやすくなりましたし、通塾が6月に再開したんですけども、感じたのは『勉強体力』。集中して一つの事をやるって事が物凄く出来るようになったという変化はあったので、その期間にオンラインで集中して取り組む習慣がついたと思います。

加藤さんの学習塾での様子


佳南:今まで話が出て来た中で、オンラインだと疲れてしまう・集中が切れてしまうという話があったんですけど、逆にそれを逆手に取って『リズム』を作って集中を作っているということですね。


佐田:参加者Lさんや、参加者Tさんがオンラインで工作教室やヨガを子供と受けたりして『家族のリズムを作った』という話を聞きました。私自身も5歳の子どもがいますが、コロナで公園などの人気のある場所への外出を避けなければいけなかった時に私自身も疲れてしまうし、子どもも疲れてストレスが溜まっていたんです。そういう時に例えば「毎日10時からオンラインで子供と一緒に参加出来る」物があったらいいなと思っていました。オンラインの使い方は救われる部分があるなと思いました。


参加者G:私もオンライン授業で多い時だと20人くらいでやったんですけれど、集中力の維持という意味では、普通の現場(小学校)では45分ちゃんと皆でやっていこう!という感じですね。オンラインはそれが無理だなと肌感で分かります。だから途中で「じゃあ今の自分の気持ちをチャットに打って!」と参加するタイミングを5分に1回みたいな感じでガンガン入れていきます。まず授業の始まりは『挨拶』ではなく、「皆、コップ持った?それじゃあかんぱーい!」みたいな雰囲気でやった方が、子供達も疲れる前提でやっているのでその方が楽しく出来たなという実感があります。子ども達のやる気を上げるには『場の提供』という意識がキーワードだと思います。


オンラインが疲れる原因は『面と向かっていなければいけない』という事だと思いますが「オンラインの場所を解放している。自分の事をやっていて、聞きたくなったら聞く」みたいな場があると、集中に繋がるようです。それを実践してる公立学校もあって、本当に1日中「解放してるだけ」というオンライン授業をやっている学校もあります。子どもの『主体性』がすごく上がったと注目されているので、加藤さんの取り組みはそれに近いのではじゃないかなと感じました。。


佳南:次のトピックなのですが、お話を聞いてて、既に色々な工夫が出て来てますね。「場を解放しておく」だったり、「乾杯タイム(始めの挨拶代わり)だったり。演劇の場合もそうです。オンラインのコミュニケーションの難しさがある中で『どういった工夫があったら上手くいくんだろう?』、『こんな事あったら良いんじゃないかな?』、『こういうコンテンツ楽しいんじゃないかな?』というお話が出来たら良いんじゃないかなと思います。


Topic2『コミュニケーションでどんな事があったら良いかな?』


佳南:『オンラインの授業は少人数の時に参加するようにしてます。自分がファシリテーターの立場だった場合大人数の時にどうやって1人1人に対応すればいいのか、迷いがある。』について参加者Tさんは少人数の時を選んで参加するように気を付けているんですね?

及川:参加者Tさんは工作教室を子ども向けにやっているそうです。オンラインの場合、少人数の時は参加型にして皆を引きつける工夫をしているんですが、大人数になるとどうしても手元が見えないし、引っ込み思案の子など性格によって参加出来なくなってしまう子もいて、どうフォローすれば良いのかと仰っていました。それに対して、工作だったら、作る時間とかキットを組み立てたり、そういった制作の時間はリアルの場で「1人の制作時間」にして、それを発表する時間を「オンライン」な時間に分けて、上手く取り入れたらどうだろうという話が出たりしました。


佳南:つまり「リアルの時間」と「オンラインの時間」を組み合わせるという事ですね。それに付随して、参加者Tさんは『人形キットを子供達に送って、オンラインでWSするのはどうだろうと考えている。とのことですが。


参加者T:演劇教育からは外れてしまうかもしれないのですが、自分で想定していた人形作りWSというのが、材料をキットとしてWS参加者に事前にお送りして、それを元に「何時から何時までここを開きますよ」とURLを送ってそこで場を作る。そして完成した人形を発表し合うのを想定していました。


佳南:面白い!それは発表までを含めてのWSという事ですか?


参加者T:そうです!


佳南:オンラインとリアルを組み合わせるという所で、加藤先生どう思いますか?


加藤:リアルの場の物を、そのままオンラインに持っていくと、なかなか思い通りにいかない部分が出て来ますね。そうすると、物作りに関して言うと、せーので初めてせーので終わらせるのは中々難しいという問題が出てくると思います。「プログラミング教室」もやってるんですけど、その中で思うのが、物作りという観点から言うと、「物を作る動画」は作ってあげちゃった方がいいと思います。その動画を作ってあげて、それを各自見て物を作ってもらう。

そして、ここはちょっと難しいかも知れませんが、作ってる過程の動画を撮影してもらい、それを当日シェアし合ったりすれば、それに対してコメントしたり、アドバイスしたりしてフィールドバックしてあげれば場が盛り上がったりするんじゃないかなと思いました。なので、リアルタイムで出来る事と出来ない事を常に意識して、そうじゃないのは動画で配信してしまうという風に分けてオンラインを使うようにするといいと思いますよ。


佳南:『幼児向けの参加型のオンラインは難しい。LINEやチャットで情報をもらうやり取りが出来ない』子供達はオンラインは使いこなせないですもんね・・・。参加者Kさんいかがですか?


参加者K:基本的にオフラインの時でも参加型にしたいと思ってるんですね。参加型を幼児向けで考えた時に、結構いろんなハードルがあって、中々ジャストアイディアが出てこないんですね。色んなアイディアが出てくるんですけど、それは障害を持っている方(成人)にはやったりしてて、『乾杯タイム』もやっています。小学生くらいだと、自分で考えたり、反応できる子達には出来るかもしれないけど、幼児向けは中々難しい所があるな〜と、仲間とずっと考え続けています。


佳南:その中で実現できそうなアイディアとかありますか?


参加者K:私達、幼稚園・保育所向けと、親子向けは分けて考えていて、親子向けであれば幾つか思い付いているんですけど、幼稚園・保育所向けは・・・結構難しくて、まだアイディアが全然浮かんでない感じですね。


及川:私の5歳の娘がYoutubeで子ども向けの動画を見ながら『ユーチューブごっこ』をやるんですよ。ユーチューブごっこをしてるのを実際に撮影してあげるんです。例えば、幼稚園から配信されたクッキング動画(実際はママ向け)があるのですが、給食室の先生が給食メニューを作る配信をしてて、子どもは結構楽しんでて、砂場で調理をするユーチューブごっこをするんですけど、結構詳細に再現するんです。動画で見たものを真似する、そこには「創造性」があるから、そこを上手く利用できないかなと。


参加者K:段階を踏めば「これは面白い!」ってあるんだけどね・・・。「オンライン」と「オフライン」を分けて考えなくちゃいけないのも分かるんだけど、そこを無くしちゃっていいのかなって言うのがあって、リアルタイムでやり取りを・・・出来ないから、悩んでいます。


佳南:オンラインでどんなに工夫しても、リアルタイムでのコミュニケーションに変わるものはない気がしてますよね。


加藤:オンラインで伝わるのは、8割程度と思ってやっています。それで全て整えようとするとどうしてもダメで、残りの2割はやっぱりリアルが必要だよねって形で伝えてないと、なんでオンラインでやったのに全部出来ないんだ!といった話が出てきますし、実際にリアルでやらないと出来ない事っていうのはもう皆分かってるので、そこの部分は常に意識して色々デザインさせて頂いてるんですね。小さい子に関してのお話もさせて頂きたいんですけど、実際小さい子、小さくない子ということよりは、実はこれは塾でやってて特に感じるんですけど、オンラインの授業を受けにくる生徒のサポートをやってるんですよ。私が授業をするんじゃなくて、授業を受けに来る生徒をサポートするってのがあって、このサポートの技量って結構重要なんですよ。

この技量のところにフォーカスされてる人って私が知る限りあまりいないんですよ。そこが出来てる塾はオンラインでも回るんですよ。

ということを考えると、自宅にいる保護者の方とかのサポートがやっぱり重要だったりして、それはちっちゃい子であればちっちゃい子どうしてもサポートが必要になってくるんですけど、そこへの関わり方の部分で保護者の方に働きかけていかないと結構回らないという現象は必然的に起きてしまうんですね。

中学生、高校生とかなってくれば1人でやってるからいいだろうってなってしまうんですけど、そうではなかったりするっていうのが裏目にあったりするんで・・・。


参加者A:オンラインってずっと画面に噛り付いてる事自体がストレスだし、子どもにとってよくないと思います。だから、画面から離れる時間を作る為にも、ここで一つテーマを与えて「じゃあお家の中から探しておいで〜」みたいな感じにして、画面から離れる時間を作ってあげる。お家の中で見つけた物を発表して遊んで、「あ!それうちにもある!」みたいになると、画面の向こうの人もそうだし、お家の人ともコミュニケーションが取れますね。普段は入れない場所に親の許可を得て冒険しても良いし、発見したものをシェアできると、お家のなかでもコミュニケーションが取れたり、新しい発見に繋がったりすると思います。


加藤:皆さん今日はどうでしたかね?ずっとオンラインの取り組みについてお情報提供しましたが、実際にコロナになってリアルの大切さに気付いて、皆さんもそう言ったところを感じているんだなと改めて感じることができ、良かったです。


佳南:ありがとうございます。加藤先生のおかげで良い時間になりました。以上で終了します。

【開催を振り返って】
様々な活動をオンラインに切り替える必要性を迫られている時期の開催でした。アーティストにとってもオンラインで何ができるのか、できないのか、模索中の中、加藤さんからはちょとしたコツからオンラインのポジティブな活用方法などを伺い、また子ども達とのコミュニケーションについて時代性を反映したお話を伺うことができました。加藤さん、ありがとうございました。(及川)