2024.06.18
【報告】仙台一高演劇ワークショップレポート
令和6年度もPLAY ART!せんだいと理事であり東北大学医学系研究科の虫明先生との協働研究「演劇的手法を用いた共感性あるコミュニティの醸成による孤立・孤独防止事業」が始まりました。
5月には宮城県仙台第一高等学校の1年生を対象にワークショップが開催されました。当日のレポートを当団体インターンの梅内智穂子さん(東北大学学生)に書いていただきました。
【実施先】宮城県仙台第一高等学校 1学年
1年3組 40人(男子19人・女子21人)・1年4組 42人(男子24人・女子18人)
【ファシリテーター】大河原準介
【コーディネーター】及川多香子
*RISTEX(社会技術研究開発センター)が進めるSDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム「演劇的手法を用いた共感性あるコミュニティの醸成による孤立・孤独防止事業」
これは、東北大学大学院医学系研究科教授虫明元先生が主体となり、当団体が協力団体として関わっていいます。
仙台一高で1年3組と4組を対象とし、コミュニケーションを楽しむことを目的としたワークショップを学級単位で実施しました。
ワークショップの最初は拍手をつなげるワークでアイスブレイクを行いました。最初は拍手が途切れ途切れつながっていましたが、大河原さんの誘導に乗ってだんだん滑らかに拍手がつながり、生徒たちの表情も明るくなっていきました。大河原さんはこのワークで、コミュニケーションとは何かを伝えるだけではなく、相手が伝えたことを受け取ろうとすることであることを伝えました。
その後、3組ではパントマイムしりとりを行いました。大河原さんが「うし」だと思って見せたパントマイムを生徒が「うま」と解釈するなど、コミュニケーションにおける「伝わらない」状況を感じる場面が多くありました。また、4組ではパントマイムだけで好きな科目を伝え、仲間で集まるワークを行った結果、一つのグループに「英語」「国語」「数学」「体育」が好きな生徒が集まったという例がありました。大河原さんは「一生懸命伝えようとすれば必ず伝わるとは限らない。相手が『伝わろう』としなければ情報は伝わらないから、伝えようとすることを受け止めるアンテナを張っておくことが大事」と伝え、生徒は熱心に聞いていました。
仲間探しワークでは「好きな豚肉料理」のお題で、他のグループが好きな料理を聞いて「あー、それもあった!」「そっちのほうが好きかも」というような感想が出ました。大河原さんは生徒たちに「人は趣味や好みがみんな違うもの。『豚肉といえばとんかつというのが適切だ』などと他者の意見に流れる必要はない。他者と違うことを覚えておくだけでいい。」と伝えました。
続いて、ワークショップのメインであるグループ創作を行いました。今回は十数人のグループで「誰が」「どこで」「どうした」の3枚のカードをランダムに引き、できた場面を演じるワークでした。今回のルールは、セリフは誰か一人が一言だけ発すること、場面のカードは1枚だけ観客に明かすことでした。どの役割の人がどのようなセリフを発するかで場面の伝わり方が大きく変わります。「コンビニで」という場面での店員役の生徒の「ファミチキが1点」という一言や「ピエロ」という登場人物の「ハーイジョージ」という一言のように、直接的ではないセリフだけで状況が伝わったときは、生徒たちの表情も一気に明るくなりました。ワークショップ終了後、「簡単ではなかったけれど楽しかった」「思ったことが相手に伝わると嬉しい」といった感想が生徒から寄せられ、コミュニケーションの難しさと楽しさを実感できたのではないかと感じました。
今回のワークで際立ったのが共通認識の重要性です。「神」という登場人物を表現するため、生徒が一高の応援団長の歩き方を見せるという場面がありました。一高では応援団長を神として扱う伝統があるため、生徒たちや一高の卒業生である大河原さん、虫明先生はそれを見て登場人物が「神」であることを理解したのです。前述のピエロのセリフについても、一高の先生から「『ハーイジョージ』というセリフだけで生徒はピエロだと分かったが、私は分からなかった。世代の違いだろうか」という感想があり、コミュニケーションではお互いがもっている前提条件をコンテクストとして情報の伝達が成り立っていることを改めて思い知らされました。
私はこれまでバレエやモダンダンス、朗読などの表現活動に数多く取り組んできました。大学1年生の時に虫明元教授(当時)の講義を受講したことで演劇的手法を用いたワークショップを活用したコミュニケーションに関する教育について知り、そこでPLAY ART!せんだいに出会いました。3年生の現在では教育学部で発達心理学を専攻しています。社会性やコミュニケーションを専門的に学びつつ、及川さんからお話をいただいてPLAY ART!せんだいのワークショップに同行させていただき、演劇教育の現場を学んでいます。
今回のワークショップは大河原さんも言っていたように偏差値や進学に関わるものではありません。しかし、コミュニケーションには伝えようとすることと伝わろうとすることの両方が必要であることを感じたり、コミュニケーションを楽しいと思えるようになったりすることは、今後社会の中で生きていくうえで進学することよりも大事なことではないかと私は思います。私が学校や習い事など、他者集団の中で日々を過ごすことで得られたのは、他者と関わることの難しさと楽しさではないかと今になって感じます。学校には合う人だけがいるとは限らず、自分の意図が他者に伝わらないことが頻繫にありました。それと同時に、学校での関わりが自分の心を支えることもありました。 少し前まで高校生だった立場として生徒たちに何か伝えることができるならば、勉強が忙しくて息が詰まることもあるかもしれないけれど、学業だけに左右されず、今しか関われない高校の仲間たちと過ごす時間を通して勉強するだけでは得られない経験を積んでほしいなと思っています。一高の生徒たちが、今回のワークショップを通して「他の人と関わって何かするって、難しいけど楽しい」と少しでも感じてくれたら嬉しいなと思います。