2021.02.19

演劇教育プロジェクト2020レポートのはじめに

演劇教育プロジェクト2020レポート#1
PLAY ART!せんだい 共同代表 及川多香子

 アートを活かす!アートを楽しむ!ことをミッションに活動している当団体は、2020年度より演劇を子どもの学びに活かす「演劇教育」に取り組みました。仙台ではまだ継続した実施事例が少ない演劇教育の取り組みを、アーティストや実践者などの演劇界隈の人材と、教育現場の方々がお互いに情報交換し、試行錯誤しながら、一緒に作り上げていくことがねらいです。たくさんの方にご参加、ご協力を頂きながら、5ヶ月間で4つのプログラムを駆け抜けました。


 演劇教育周辺の情報について語り合う「カタルバオンライン」、演劇ワークショップを初めて体験する方のための「教育者のためのはじめての演劇ワークショップ」、第一人者から学ぶ「平田オリザ特別講演会&ワークショップ」、そして最後には2日間かけ演劇プログラムを作り上げる「共につくる子どものための演劇プログラム」です。

その全てにおいて、関わったスタッフやファシリテーター、参加者にレポートをお願いし、実施の記録およびノウハウの蓄積として残しておくものが、このレポート集です。(この後随時アップロード予定です)

平田オリザ演劇ワークショップの様子 2020.11.3

 はじめに改めて、なぜ当団体が演劇教育を取り上げるのかについて触れておきます。2019年4月より実施が始まった新学習指導要領前文には「多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手」がこれからの社会に求められるという教育理念が掲げられています。

 
 図らずも、コロナ禍という誰も経験したことがない大きな社会的変化の只中で、初年度の演劇教育プロジェクトがスタートしました。改めて、未来を担う子どもたちに求められる、社会の変化に対応する力、多様な他者と協働して課題を乗り越える力の必要性を痛感しました。

誰も経験したことがない超高齢化社会、広がるばかりの経済格差、非正規雇用の増加、新たな感染症との戦い。様々な状況を乗り越えていくためには、個人の知力や能力だけでなく、様々な情報をかき集め他者と協力し、解決策を導き出していくスキルが求められます。

言わば「コーディネートする力」です。それらを身につけていく、もしくは子どもたちの可能性から引き出すために、失敗してもよい環境下で試行錯誤し、様々な状況を想定した課題に取り組んでいくことが必要とされます。

 
 演劇はフィクションの世界において無限にその状況を設定することができます。そして他者を演じることで、普段の自分とは違った考え方をトレースし体感することができ、結果として他者理解につながることが期待できます。様々な考え方や状況のストックを自分の中に増やしておくことは、想像力を駆使する演劇の得意とする部分です。

 
 自分の身の回りにいる友達や家族でさえ、「多様」であること、考え方が違うということを改めて認識することは、「空気を読む」ことが求められる日本社会において、簡単なことではありません。ですが、まずは他者と自分の違いを認識し、「わかりあえない」ことから出発しないと、「伝えたい」というモチベーションは生まれないのではないでしょうか。

今回のプログラムの中でもアイスブレイクの段階からいくつかのシアターゲームが試されましたが、その中でも普段自分が「あたりまえ」と思っていることが他人にとっては違う、と参加者が気がつく場面がいくつもありました。

演劇的手法を使ったワークショップでは様々なワークやゲームを駆使し、考え方の違いや自分でも気がついていない自分の思考を、パズルのピースを一つ一つはめていくように明らかにしていきます。そしてそのこと自体がメインテーマ(設定された課題)を乗り越えるアイテムになり得るのです。

その過程は、一人一人の主体的な参加を促し、たくさんの対話を生みます。昨今の教育現場でしきりに取り上げられる、主体的で対話的な学び、それを実践する一つの選択肢として、演劇的手法がもっと広まっても良いのではないか。当団体はそのような思いから、ここ仙台から演劇教育のネットワークを広げていきたいと考えています。

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