2023.01.08

【報告】うまく楽しく生きてくヒント/仙台一高演劇ワークショップ

【実施先】仙台第一高等学校 全学年 希望者生徒22名
【ファシリテーター】大河原準介
【サブファシリテーター】菊地佳南
【コーディネーター】及川多香子

このプログラムはRISTEX(社会技術研究開発センター)が進めるSDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラムの一環で行っているものです。東北大学大学院医学系研究科教授虫明元先生が主体となり、当団体が協力団体として関わっています。事業タイトルは「演劇的手法を用いた共感性あるコミュニティの醸成による孤立・孤独防止事業」となっており、具体的に当団体は演劇的手法を用いたコミュニケーションワークショップを行い、研究過程の中でアートの視点からアドバイスや提案を行っています。

仙台一高で演劇ワークショップを行なってきました。仙台一高といえば当団体の演劇教育プロジェクトファシリテーターである、大河原準介さんの母校!ということで、プログラム作成もいつもに増して熱心に、気持ちが篭っていました。

今回のワークショップのテーマは「うまく楽しく生きていくヒント」です。
参加生徒を募る文面で大河原さんは「(今回のワークショップは)受験の役には立ちませんが、楽しく生きていくために役立つヒントがゴロゴロ転がってます。っていうか、受験って楽しく自分らしく生きていくためにあるんじゃなかったっけ?それなのに目の奥濁らせて溜め息つく毎日はもったいないぜ、みんな。楽しもうぜ、人生。peace。」
と呼びかけました。
楽しく生きていくために少し意識しておくといいことを、3日間の演劇ワークショップでどのように伝えたのでしょうか。

【1日目】
全学年から参加しているため、初めて顔を合わせる生徒もいました。というわけでアイスブレイクに時間をかけます。いくつかのシアターゲームで頭と身体を温めたあと、「おおきいものちいさいもの」のワークを行いました。人数分の数字が書かれたカードを私、自分だけで数字を確認します。そのカードの数字は物の大きさを表しており、1ならば「米粒」20ならば「豪華客船」のように、数字が大きくなるにつれて大きいものを自分の中で決めます。決めた物を言わずに、会話だけで数字の順番に並ぶというワークです。


このワークでは自分が思っている数字の大きさと周囲が考える大きさに違いがあることがわかります。この日も数字が「趣味のアクティブさ」を示しているとして、その趣味で順番を変えた際、「平日に山登り」というとても絶妙な趣味が出ました。山登りなのだから「アクティブだ」と考える人もいれば、「平日」という言葉に着目して日常的なアクティブではない趣味だと考えた人もいました。
「伝える」と「伝わる」は違う。これを意識して他人とコミュニケーションしていくことが今回のワークショップで大河原さんがテーマにしていたことでした。平田オリザさんの著書にもある通り「伝わらない」ことから人との関係づくりを始め、「言葉」「表現」「想像力」を使って着地点を探っていくことを「意識的に」行います。正解はない、演劇は自由だ!ということを何度もコメントしながら、ワークショップは進み、次第に生徒たちも自分なりの答えや表現を出してくるようになりました。

【2日目】
2日目のメインワークは「自分のやりたい役だけで紡ぐ物語2022冬」です。自分がやりたい役を紙に書いた後、グループでその役が全て出てくる短い創作を行います。創作時間は15分!テーマは「一高のCM」です。最後には各グループが発表します。
グループ創作ではおのずと対話が生まれます。学年や部活、クラスを超えた生徒同士が、短い時間のなかで自分の役割を見つけながら発表に向かっていかにグループに貢献できるかが鍵となります。

「岩」や「木」など無機物を書いた生徒たちもどうにか劇のなかで登場できるようストーリーを考えていました。

【3日目】

最終日のメインワークは「インプロビゼーション」を使った即興で演じるワークです。2つのグループに分かれ、それぞれにセリフを一つ渡します。シチュエーションは予め設定し、そのシチュエーションの中で、与えられたたセリフだけで演劇を成り立たせていきます。

ここでのシチュエーションづくりにおいて、ファシリテーターの大河原さんはティーチャーインロールという手法を使っていました。これは、ファリリテーターが役として介入し方向転換や、深化、発展させるためにナビゲーションするという演劇教育の代表的な手法です。シチュエーションはとても深刻な場面に設定されており、重ねて大河原さんがシリアスな役として導入を行なったため、生徒達の顔も一気に物語の世界へと真剣は表情に変わりました。

(シリアスな状況設定で見ているこちらもヒリヒリする場面)

中には与えられたセリフを一度も言えない生徒もいました。後から理由を聞いてみると、状況的に言えるタイミングがなかったとのこと。物語の流れや空気を読みタイミングを測っていたことがわかります。このワークは役への没入性が少し深いため、念入りなアイスブレイクや演劇的手法に慣れる時間が必要となります。3日間のワークショップだからこそできた高度なワークでした。(ちなみにこの1年でこのワークは仙台一高が初めてでした)
難易度が高いように思えましたが最後まで生徒たちはやりきってくれました。

ワークショップに参加した生徒からは「今まで(勉強などについて)ライバルだと思っていた周囲の人たちへの見方が変わりそう、一緒に何かを学ぶことができるということに気がついた」という感想がありました。

大河原さんが生徒募集の際に書いた通り、今回のワークショップは受験勉強のためにはならなかったかもしれませんが、その先の人生において、他者と関わり合いながら、うまく楽しく生きていくためのトレーニングが詰まっていたと思います。ご参加の生徒のみなさん、そして仙台一高の先生方、ありがとうございました。