2022.07.05

文化芸術・地域文化施設をつなぐ コーディネーターの現在地とこれから。(前編)

2022年6月11日(土)に開催された、プレイアート・ラボ 第5回の開催レポート。

現在、私たちの活動拠点である宮城県や仙台市では、新しい文化施設の建設検討が進められています。ハード部分の整備が進められる一方で、ではどんな場になるといいのだろうか。文化施設がよりよく活躍するためには、アーティストや地域、文化施設をつなぐコーディネーターが重要なのではないだろうか。

そこで今回は、文化芸術分野でコーディネーター的な役割を担う人に、丁寧にインタビューし膨大な量の情報を「75の糸口」としてまとめた「令和3年度地域と文化芸術をつなげるコーディネーター インタビューによる事例調査」を、STスポット横浜理事長の小川智紀さんと読みときます。

改めて、コーディネーターの存在はどんなものか。これから私たちはどうしていくべきか。

皆さんの参考になればさいわいです。

【スピーカー】
小川智紀(特定非営利活動法人STスポット横浜 理事長)

「舞台芸術を中心としたアートと市民社会の新しい関係づくりを推進するとともに、アートの持つ力を現代社会に活かし、より豊かな市民社会を創出すること」をミッションに掲げる、NPO法人STスポット横浜。小劇場の運営をはじめ、芸術家が学校へ出かけていく『横浜市芸術文化教育プラットフォーム』、地域文化を担う民間団体をサポートする助成金事業『ヨコハマアートサイト』、障害者と芸術家の活動のあり方を考える『神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター』を運営。個人としては中間支援組織として、アートNPOの運営団体などによるNPO法人アートNPOリンク、コンテンポラリーダンス関係者によるNPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク、子どもたちの活動を支えるNPO法人子どもと文化全国フォーラムに関わる。

【案内役】
及川多香子(PLAY ART!せんだい)


目次
1. コーディネーターは、多様な価値観を多くの人に届ける問屋。
2. より複雑に、より多面的に。あらゆる場所にコーディネーターは存在する。
3. コーディネーターを読みほぐす、75の糸口。「文化政策・文化行政・文化施設」に今、求めること。
4.「劇場・創造、文化の場づくり」の力と役割。めざす姿。

コーディネーターは、多様な価値観を多くの人に届ける問屋。

 私は紹介にもある通り多くの肩書きで仕事をしていますが、どれもやっていることは「中間支援」。中間支援とは、市民活動のなかではよく知られた言葉で、商業でいう問屋です。つまり、間に入り、いろんなところと付き合い、調整する係。産地直売も流行っていますが、届ける範囲に限界があります。そこに問屋の調整が入ることで、多くの人に隅々まで人参や大根を届ける。そのアート版をやっているようなものです。仙台では、「せんだい・みやぎNPOセンター」などが、中間支援組織として知られていますね。

 さて今日は、一般財団法人地域創造が行った調査についてお話しします。調査の目的は、「地域と文化・芸術のつなぎ役であるコーディネーターの活動を具体的に紹介することで、”これから”求められる人材の在り方について考察を行い、課題の整理や目指すべき将来像を検討すること」。これ、かなり分厚い報告書です。分厚い報告書ってなかなか読まないんですよね。作ったはいいがそこから活用していくとなると、難しい。ですから、今日はせっかくなので皆さんで読み解いてみようと思います。

 公式の報告会も7月26日〜27日に「地域創造フェスティバル2022」内でありますので、ご興味のある方はぜひそちらもお聞きくださいね。

 報告書でまず記されているのは、なぜコーディネーターが必要か。それが5つのポイントでおさえられています。

 そもそも、文化芸術とは何か。アートとは何か。私は、文化芸術もアートも、人々の価値観をもとに活動しているものだと思います。地域にとって、八百屋やパン屋などがあるのはもちろん大事だけれど、多様な価値観を提供してくれるアーティストの存在も欠かせない。だけど、直接生活に関わるものではないので理解されにくい面もあります。だからこそコーディネーターという存在がより重要になってくるのです。

より複雑に、より多面的に。
あらゆる場所にコーディネーターは存在する。

(図1:コーディネーター像の変遷。笑顔マークがコーディネーターを示す)

地域創造の報告書の冒頭に、上記のような図があります。
これまでから現在にかけて、コーディネーター像への変化は著しいものです。地域課題は複雑化していて、絡み合っている。そして、いろんなところにコーディネーターも存在しています。

話は逸れますが、さいきん文化庁の「Innovate MUSEUM事業」の公募が出ました。博物館法に関わる事業ですが、ここには、美術館や歴史博物館はもちろん、動物園なども含まれています。ここで文化庁が何を求めているか。「高齢化」「子育て支援」「多世代の学び」「孤立・孤独対策」「地球温暖化」「まちづくり」「観光振興」などなど。それを考える美術館や動物園を募集していたんです。公募要項の最後には、「実施にあたっては、まちづくりや福祉、国際交流、観光、産業、環境などの関連団体、関係者とつながっていること」なんて書いてある。つまり、何らかのコーディネート機能を持っていることが前提だと言われています。こんなの難しいですよね。美術館・博物館の水準も今変わろうとしています。 大きな変化の中にあるからこそ、セクターとセクター、セクターと人、人と人をつなぐ、コーディネーターについて考えないといけない、というのが大前提です。

社会の現状が変わってしまっている以上、これまでのやり方ではうまくいくはずがありません。たとえ新しい文化施設を作ったとしても、うまく機能しなければ意味はないのです。

6月4日に出た内閣府の「骨太方針2022」では、文化施設に「コンセッション方式」をどんどん採用していこうと言われています。コンセッション方式とは、施設運営権を民間に売却するというもの。宮城県には、水道を民間事業にしようという動きが少し前にありましたよね。あれがコンセッション方式です。文化も水と同じ。お金の話だけでなく、その質や機能が必要です。私たちがその声をあげていかないといけないのだと思います。

コーディネーターを読みほぐす、75の糸口。
「文化政策・文化行政・文化施設」に今、求めること。

報告書には、コーディネーターを読み解くためのポイントが全部で75個記載され、「75の糸口」としてまとめられています。まずは、文化政策・文化行政・文化施設に対して。文化政策には発想の転換が求められています。

A4「ネットワーク化するガバナンス」とは、行政・財団・芸術家の関係性についての言葉です。その関係性はよく、「行政>財団>芸術家」というヒエラルキー型で捉えられていました。だけど、これではもう対応できないことがたくさんある。それぞれの専門に近いところで、みんなで話し合って決めちゃうという方が、結果的に全体の公的価値の最大化につながるのではないか。「地域のことは地域に」「現場のことは現場に」「専門のことは専門家に」と考えたほうがいい時代になっているのではないか。それをネットワーク化と言っています。

『自治体文化行政レッスン55』という美学出版から出ている本を読むと、文化行政の方が何を考えているのかがよくわかります。コーディネーターや文化施設を運営する方、NPOの方も、勉強してみると参考になるかと思います。

A5「文化的コモンズ」とは、「地域の共同体の誰もが自由に参加できる入会地のような文化的営み」です。以前の地域創造の報告書に詳細に報告があります。

地域の中のいろんなアクターが繋がっていけば、文化的コモンズが小さくともできていくのではないか。これをもとに広がっていこうという考え方です。といっても、その間はコーディネーターがつなげていくわけですけどね。上図には人がいないですが、それだけの人が必要だということです。

実は正直に言いますと私は、文化的コモンズに対して、ちょっと意見もあるのです。文化的コモンズは一体何のために作っているのか。目的が不明瞭なのですね。何でもいいから繋がろうとするのもいいかもしれないけれど、どこに向かうかわからないまま、ただ繋がっていっても苦しいだけかもしれません。

ここでは、「属人」という言葉が出てきました。「属人化」とは、特定の担当者しか状況を把握していないということです。属人化の反対は「標準化」「マニュアル化」。行政は、これまで属人化を嫌ってきました。だからコーディネーターについても、誰でもできる仕事にする方向もあるのかもしれない。だけど、特定の誰かがやることで面白くなることを、もう少し許容しないといけないのではないかとも思います。ある芸術家、あるプログラムオフィサー、あるいは、地域のことに詳しいおじさん。この人じゃないといけなかった。そういうことはあると思うのですよね。それを文化政策にどう位置づけるか。コーディネーターという仕事も属人性を伴っていくと思います。それを踏まえて文化政策を打たないといけないのではないか、という提言です。

A12「新たなベクトル」ということは、前のベクトルがあったということです。以前は、劇場についての定義が曖昧な時代、創造型劇場というクリエイションができる余白のある劇場を劇場と呼ぶべきだ、とした動きがありました。それに伴って劇場・音楽堂法ができた。だけど今、これでは説明できない場所がたくさんありますよね。だから新しいベクトルが必要なのだと。おそらくは、PLAY ART!せんだいも目指す社会的包摂などの考え方が新たなベクトルになるのではないか、と考えた上で書かれていると思います。

以上が、文化政策・文化行政・文化施設に対しての提言です。

コーディネーターを読みほぐす、75の糸口。
劇場・創造、文化の場づくりの力と役割。めざす姿。

次は「劇場・創造・文化の場づくり」へ向けて書かれた提言です。ここでは、「空間がもつ力が大事だ、共有地としての場所が大事だ」と話があります。これは民間劇場の回答です。民間劇場のほうがずっと上手くやっている場合もあるんですよね。公立文化施設であるせんだいメディアテークは、すばらしい施設だと思います。一方で、gallery&atelier TURNAROUND(*1)がなくなったらどうしますか。映画館でいえば、TOHOシネマズもMOVIXも大事。だけど、フォーラム仙台(*2)がなくなっていいんですか? それぞれ、役割が違いますよね。民間劇場のなかでも、空間が持つ力を活かし、共有地になっている場所はたくさんある。そこに、コーディネーターの役割もまだまだあると思います。

「別の力が蓄電される場」というものを、コーディネーターは作るべきものだよねという話もあります。「別の力が蓄電される」とは別の言い方をすれば、緩いということ。ルーズであることが必要だということです。それから「居場所のない人の居場所」「無目的で居られる場」。今の世の中は、目的を持ち過ぎているのかもしませんね。

宮城県石巻市にあるアトリエ・コパン(*3)のとある資料に、「目的を持って作るのも大事だけど、画材や素材で遊んでいるうちにこんなものができちゃったという生まれ方も大事だ」とはっきり書かれていました。ただ遊びから生まれるものもあり、さあ何をつくる?だけから始まって生まれるものだけではあまりよくないのではないか。そういう問題提起があったのです。目的がなくとも何かが生まれることは、あるんですよね。コーディネーターは、それを信じて動かないといけないなと思います。


(*1) gallery&atelier TURNAROUND

社会との関わりや教育等を多くの人々に広めていくことを目的とした仙台市青葉区大手町にあるギャラリースペース。地域の作家を中心に力のある作品をセレクトし展示。カフェ ハングアラウンドも併設している。過去には「仙台藝術舎/creek」も運営し、次世代のアーティストやアートに携わる人材育成にも力を入れている。

http://turn-around.jp/

(*2) フォーラム仙台

アート系作品が自主上映以外ではほとんど上映されていなかった東北の大都市・仙台に、1999年12月誕生。映画監督や俳優のトークイベントなども積極的に行い、映画好きが集う「私の部屋」的な落ち着いた雰囲気のアートハウス。

https://forum-movie.net/sendai

(*3) アトリエ・コパン

宮城県石巻市にある子供向け造形教室。石巻で30年以上の歴史を持ち、宮城県出身でアートに関わる方の中にはコパン出身という方が多数。

>>>中編・後編へつづきます。