2022.07.09
文化芸術・地域・文化施設をつなぐ コーディネーターの現在地とこれから。(中編)
2022年6月11日(土)に開催された、プレイアート・ラボ 第5回の開催レポート。
現在、私たちの活動拠点である宮城県や仙台市では、新しい文化施設の建設検討が進められています。ハード部分の整備が進められる一方で、ではどんな場になるといいのだろうか。文化施設がよりよく活躍するためには、アーティストや地域、文化施設をつなぐコーディネーターが重要なのではないだろうか。
そこで今回は、文化芸術分野でコーディネーター的な役割を担う人に、丁寧にインタビューし膨大な量の情報を「75の糸口」としてまとめた「令和3年度地域と文化芸術をつなげるコーディネーター インタビューによる事例調査」を、STスポット横浜理事長の小川智紀さんと読みときます。
改めて、コーディネーターの存在はどんなものか。これから私たちはどうしていくべきか。
皆さんの参考になればさいわいです。
【スピーカー】
小川智紀(特定非営利活動法人STスポット横浜 理事長)
【案内役】
及川多香子(PLAY ART!せんだい)
》》》スピーカープロフィールおよび前編はこちら
目次
中編
5. 社会課題における「アート・アーティストの役割」。
6. アートと地域・社会課題をつなぐ「コーディネーターに求められる姿勢」。
7. 「コーディネーターの活躍に向けて」。
コーディネーターを読みほぐす、75の糸口。社会課題における「アート・アーティストの役割」。
次に「アート・アーティストの役割」についてです。
C12「課題解決の呪縛」もあるのではないかという提言があります。とある課題に対してアートで解決していきますという流れがありますが、実際、課題なんてアートでは解決できないのですよね。役割が違います。アートの得意分野は、課題を解決することではなく、課題を発見することなのです。 僕が学校へ行くと、「学習発表会がうまくいかないので、なんとかしてください」という先生がいます。けれど、それは先生の役割なのです。アートはその前段として、演劇やアートに興味がない子供たちに、「表現はこんなに面白いんだよ」「実はこんなに簡単なんだよ」「人間って面白いでしょう」と、そういうことを伝えることはできるかもしれない。つまり、課題解決ではなく、その前の価値をつくっていくこと。自分や人間の可能性を感じてもらうことが、アートにとっては重要だろうと思っています。
コーディネーターを読みほぐす、75の糸口。アートと地域・社会課題をつなぐ「コーディネーターに求められる姿勢」。
報告書には「コーディネーターに求められる姿勢」も記されています。
先ほども「ゆるい」マネジメントの話(D11)がありました。行政は目的のない場づくりは得意ではないからこそ、アートの現場でできることがあります。自由な「かかわりしろ」を作ること。関わる余地がある場を積極的につくっていくのが大事です。そのためには「雑談」、「相談してもいい側をあげること」「広聴」が必要。みんなで結論が出ないかもしれないけど、話し合ってみよう。これもコーディネーター的な考え方かもしれません。
私が関わる現場には、障がい者とアートの現場があります。そこでは「医学モデル」から「社会モデル」に世の中が変わっているとよく言われるのです。
障がいがあるのは個人の問題で、だから病院でリバビリをして治してください。福祉・保健の領域の話なのですね。「障がいがあるのにがんばったね」。そう言われるのが「医学モデル」でした。しかし今は、障がいは社会の問題になる。たとえば、車椅子の人がいたら段差があるのが問題なので、スロープをつけたらいい。社会の環境改善をするべきだろうというのが「社会モデル」です。
そして私が今思うのは、社会モデルの先があるのではないか、ということです。名前をつけられていないですが、「当事者研究」「自助グループ」あたりに世の中の先があると信じているのです。医学モデルから社会モデルに変遷はしましたが、どちらも「障がいがなくなればいいよね」という前提に立っています。だけど現在の障がいとアートの現場には、「障がいがあるけれど、いろいろあるけれど、まあぼちぼちやっていきましょう。とりあえず今日は生きていきましょう」という姿勢があります。薬物をやってしまって、もうどうしようもないんだけど、とりあえず今日はいきましょう。
北海道の『べてるの家』(*4)は、精神障害の人たちが「治りませんように」と言っているんですよね。精神障害がもし治ってしまったら、自分が自分でなくなってしまう。でも今自分は満ち足りているから、なんとか今日みたいな生活が明日も明後日も続けばいいなという姿勢です。そういう姿勢と、コーディネーター的な話はつながっていくような気がしています。
コーディネーターを読みほぐす、75の糸口。「コーディネーターの活躍に向けて」。
最後に、コーディネーターの活躍に向けて、この報告書ではどんなことが書かれているのか。
コーディネーターには「通訳者」としての役割が求められます。プロの通訳とは私はお会いしたことがありませんが、彼らはGoogle翻訳のように単純に訳すのではなくて、文脈を読むのですよね。福祉業界でいう「アウトリーチ」を、学校で「学習活動」と言い、児童科では「遊び」と言う。そのように単純に変換せずに、文脈の中で言葉を選んでいく。その力が、コーディネーターに求められると思っています。
ここには「広い意味での市民活動」や「自治能力」という言葉が出てきています。自治能力とは何か。日本NPOセンターの「信頼されるNPOの7つの条件」というのがあるのですが、私は最近、7番目をみなさんが忘れているのではないかと思うのですよね。「新しい仕組みや社会的な価値を生み出すメッセージを発信していること」です。たとえば、行政の仕事を受けていると行政の悪口が言いにくくなったり、特定の企業の仕事をしていると特定のビールしか飲めなくなったりしてしまう。そもそも何かを必要だと感じたから、発信したいから、私たちは団体を作って活動しているのですよね。だからこそ、自分の足でしっかりと立ちながら、メッセージを訴えていかねばいけないなと私は思っています。
僕なりの読み方で僕なりの75の糸口、紹介しました。
(*4) べてるの家
1984年に設立された北海道浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点。そこで暮らす当事者達にとっては、生活共同体、働く場としての共同体、ケアの共同体という3つの性格を有し、100名以上のメンバーが地域で暮らす。
>>>後編につづきます。後編は参加者と案内役とのディスカッションです。