2021.11.29

「仙台からはじまる!アートマネジメントの現状と課題」プレイアート・ラボ vol.1開催レポート(前編)

9月4日(日)に開催された、プレイアート・ラボ第1回の開催レポート。PLAY ART!せんだいのめざす、”社会包摂的な文化芸術”はどうしたら実現されるのだろう? これからのアートマネージャーを育てていくためには? について、と、ざっくばらんに話し合いました。同じ志を持つ人たち、また、分野問わずたくさんの人が関わり生まれる文化プロジェクトに興味のある皆さん、ぜひご覧ください。

【登壇者】
菅野幸子(AIR Lab アーツ・プランナー/リサーチャー)
桃生和成(一般社団法人Granny Rideto 代表理事/地域プロデューサー)
千田優太(一般社団法人アーツグラウンド東北 代表理事/遊び人)
千田祥子(公益財団法人音楽の力による復興センター東北 コーディネーター)

【案内役】
及川多香子(PLAY ART!せんだい)

アートマネージャーってなんだろう?

及川:まずは菅野さんに、「文化行政」についてお聞きしたいと思います。

菅野:「文化行政」はとても広い言葉で、一言では語れません。私たちの生活や生活の中に含まれる伝統や文化を豊かにするための政策。それが本来の文化政策のあり方だと思います。しかし今の文化庁の政策は、経済化を全面に押し出す考えです。イギリスで先日出された10年戦略のスローガンは「レッツ・クリエイト」。国、自治体、個人それぞれの持っているクリエイティブな資源を活かしていこうというのが全ての目的になっています。

及川:市民主体的な活動について、桃生さんにぜひお話をお聞きしたいのですが、いかがですか? 

桃生:たくさんの人を巻き込みプロジェクトをしていくには、関心を持つきっかけをいかに作るか。最初の1歩、あるいは半歩をどうやってデザインするかが大切です。例えば1つのピラミッドがあったとして、私は裾野をを広げる役回りが多いのですが、最初の一歩のためには、いろんなフックを作ってあげないとむずかしい。階段が1段あったら、細かく分けて10段を作る必要がある人もいる。その1段を飛び越えて2、3段といく人もいる。多様な人たちがいるので、いろんなきっかけを日常に放り込んでいかないと、裾野をを広げるのは難しいですよね。

及川:1段を10段にする役回りが、アートマネージャーやコーディネーターと呼ばれるんですね。ピラミッドの例でいうと、その人たちはピラミッドの中に含まれますか?

桃生:ピラミッドを俯瞰する人ではないでしょうか。ピラミッドという表現が正しいかはわからないですが、客観的に、引いた目線で見る人がいることが、いろんな人が参画する場をつくるために必要だと思います。

優太:どこまでの人が参加するといいんでしょうね。仙台市民1人残らず全員が、興味を持って関わることが果たしていいことなのか。僕は『ダンス幼稚園(*1)』という活動で、子どもたちやその親など目に見える関係からやれることをやっていて、そんな進め方しかできないのではないか、と思ってきています。

*1『ダンス幼稚園』:https://youtu.be/XUG_0Dg0LyE

桃生:手法としては、分野を横断するのが好きです。異なる分野を横断することで、出会える人や新しい人を巻き込むことができると感じています。

及川:分野を横断するというのは一口に言えど、難しいですよね。桃生さんがふだん心がけていることはありますか?

桃生:私が実践するときは、目的や目標は丁寧に文字化・見える化することを意識しています。「協働」ほど難しいことはなく、仲違いしたりトラブルになることもしばしば。つながりはするが協働はしないというパターンも多いです。それぞれが違う立場で違うルールを持っている人たちなので、目的がずれると難しい。

及川:菅野さん、イギリスの協働のあり方はどうですか? 

菅野:イギリスは分野横断的な社会包括活動において、協働が行われるケースがよくあります。例えば、「アーティスト・イン・ホスピタル」。ホスピスやこどもの病棟にアーティストが関わり、ヒーリングや芸術的活動が行なわれる。協働がないと難しい事例です。

分野をまたいだ議論がフラットにできるネットワークも多数で、例えば、「What Next?」という団体。アートに関するアドボカシー(*2)をする団体で、アートに関連した、自由で、定期的な議論の場が生まれています。話し合いの内容はアートに限らず国際協力の話ができたり、はたまた文化庁の予算や団体の活動について議論できたりします。

*2「アドボカシー」:社会的・政治的なシステムに影響を与える個人・団体の運動

優太:分野横断的な議論の場について、仙台でいうと仙台市民活動サポートセンターやNPOプラザがいろんなジャンルの人たちが集まる場という認識なんですが、仙台の中での事例はないのでしょうか?

桃生:私は多賀城市市民サポートセンターにいることが多かったんですが、ディスカッションする機会はかなり重要視していました。そういう場では、ディスカッションを対話としてちゃんと機能させるための場をつくること、ファシリテーターの存在がとても重要。ファシリテーションや場づくりができる人が増えてこないと、健全な対話の場をつくるのは難しいですよね。

優太:ファシリテーションの能力も、アートマネージメントができる人の力ですかね?

桃生:ファシリテーションは、その場の議論を推進させたり前に進めたりする力なので、アートマネージメントする人にとっても必要な能力かなと思います

これからのアートマネージャーを育てていく

及川:アートマネージャーはとても難しいい職能だと感じています。OJT(実際に職を体験しながら学んでいくこと)の場が必要だと思いますが、イギリスでは、トレーニングや研修は進んでいますか?

菅野:イギリスは大学の中でも育成が行われたりしています。でも、東京でも「アーツカウンシル東京」などがやっていますね。日本のなかでアートマネージメントも発達してきていると思うので、イギリスを参考にする必要はないかもしれません。それを、仙台ではどういうふうにやっていくか。私は、仙台のリソース整理やマッピングをやってみたいなと思っているんです。どんな場所、どんな団体、どんな人、どんな活動が仙台にあるのかを客観的に分析することで、仙台の弱点も見えてくると思います。今わかっていることでいうと仙台は、人材はいるが、芸術大学などの育てる専門機関が少ないですよね。

優太:芸術大学は芸術大学としての問題がありますね。芸大出身の人たちの就職先がないという問題をよく聞きます。大学を出たそのさきをどうやって作っていくかも、考える必要がある。それはアーティストだけでなく、アートマネージメントをする人たちにも同様だと思います。

桃生:毎年数人、東北工科芸術大学の学生さんから人生相談を受けることがあって。コミュニティデザイン学科という、地域コミュニティやある一定のテーマを持ったコミュニティをデザインしていく人たちを育てようという学部の学生さんです。仕事としてコミュニティデザイナーをやっていくには、独立くらいしか職がない。ただ見方を変えると、能力としてはいろんな場面で生かせるんです。コミュニティデザインという専門性を行政で発揮できる場合もあるし、施設運営で活かせる場面もあるし、いち企業のなかで活かせる場面もある。アートマネージメントを学んだ先も、アートマネージャーではなく、どこかに所属しながら、その職能を活かすという道も現実的には存在しているのかもしれません。

(お話は後編につづきます。)

▼▼後編のトピック▼▼

・文化をひろげていいく、その先

・みなさん、活動資金はどうやって集めている?

ぜひ、後半もご覧ください。

(文:熊谷麻那)

助成:公益財団法人仙台市市民文化事業団 
   多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業