2025.01.21

【実施レポート】福祉事業所で演劇ワークショップ/Rickeyクルーズでの実践

演劇の手法をいかに福祉の現場で導入するか

PLAY ART!せんだいの「演劇教育プロジェクト」はこれまで教育現場で多くのワークショップをしてきましたが、今年度は当団体初となる福祉施設での実施に取り組みました。福祉施設にも様々な事業所がありますが、今回コラボレーションしたのは株式会社ミツイ(宮城県仙台市)が運営するRickeyクルーズです。就労移行支援/就労定着支援、自立訓練などのサービスを行なっています。

演劇の手法を使ったコミュニケーションワークは「言葉」をたくさん使います。もちろん言葉以外の伝達方法(例えば表情や身体など)も重要な要素ではありますが、基本的には「対話」を中心に、プログラムが構成されます。福祉施設の中でも障害のある人が利用する施設では、これまでのアートプログラムのコーディネート実績からするとダンスのプログラムを多く取り入れてきました。ダンスは言葉での伝達や理解に差があっても、自分と相手の身体の関係に軸を置くことで、柔軟に取り入れることができます。ですので重度の障害がある人とでも、様々なやりとりをすることができるのです。

しかし、演劇の手法を導入するとなると、障害のある人にとっては難しいのではないか、というのが今回の企画当初の懸念点でした。そんな中、就労移行支援/定着支援の事業所は導入のきっかけとしてとても向いていることが分かりました。

今回の参加者は一般就労に向けて2年間の支援を受けている人たちでした。様々な障害を抱えていますが、事業所では独自のプログラムや社会参加のトレーニングを通して、自己理解や、他人とのコミュニケーション手法を身につけていきます。障害特性により、他人との関わり方が分からなかったり、自分のこだわりによってうまく周囲の環境に合わせることに苦手意識がある、ということを事前情報がありました。そこで、今回のワークショップでは下記のようなことを目的に実施しました。
コミュニケーションの中で、自分と相手を認め、受け入れる。
・演劇的な創作と表現を通して、白黒ではない多様な意見の面白さに触れ、
他者と協働しながら自由や柔軟性を楽しむ

ワークショップ実施データ

日時:令和6年12月1日、8日、22日の3日間 各日2時間
メインファシリテーター:菊池佳南
サブファシリテーター:小濱昭博、タムラミキ
コーディネーター:及川多香子
実施場所:Rickeyクルーズ青葉通り校
参加者数:7-8人
助成:仙台市市民文化事業団

緊張の1日目

初回のワークショップでは、アイスブレイクを重点的に行い、緊張を和らげるワークを行いました。自己紹介ワークでは1人3つ、自分を紹介するキーワードを言っていきます。全員が言い終わってから、お互いに質問し合いました。この人はこんな一面があったのか!この職員さんは実は日本酒が好きだったのか、などなど、普段一緒にいる仲間でも新たな一面を見ることができました。お題に沿って並び順を変えていくワークでは、お互いに声をかけあいながら、短時間で並び替えていきます。自分だけが動いても並び替えがうまくいかないことに気がついた参加者が、並び順が分からないメンバーには声をかけて、協力し合う様子が見られました。
菊池さんからは「今回のワークショップでは3回を通して、みんなで協力することを大事にしていきます」とコメントがありました。これから社会に出て他者と協力しながら仕事に就いていく参加者にとって、適したプログラムだと感じました。



創作の2〜3日目

2日目と3日目は、主に短い作品づくりを行いました。2日目は、ジェスチャーと短いセリフを用いてシーンを創作する「ジェスチャー創作」のワークを実施しました。お題が書かれたカードを引き、そのお題から連想されるシーンをゼロから作り上げていく内容です。話し合いの場面では、1日目には自分の意見を通そうとする様子が見られた参加者が、話し合いを通して他者の意見を取り入れ、まとめようとする姿が見られました。今回のワークショップの意図が、少しずつ参加者に伝わっているという実感を得ることができました。

3日目には、「RickeyクルーズのCMをつくろう」というワークを行いました。この活動では、これまでの話し合いの経験や、仲間たちの得意な表現方法を活かしながら、事業所のPRシーンを制作しました。参加者の中には、ギター1本で作詞作曲ができる方がいて、その方のスマートフォンには何十曲ものオリジナル楽曲が録音されていました。その中の1曲を今回のCMのBGMに使用するというアイデアが出されました。そして、生歌唱に合わせて、各自が感じる「Rickeyクルーズの魅力」をセリフや動きで表現する構成となりました。

最終日の3日目には、完成した作品を動画として撮影し、職員も含めた全員で鑑賞し、拍手と共にお互いと称え合う姿がありました。

まとめ

今回のRickeyクルーズでの演劇の手法を使ったワークショップの導入は、コーディネートとして可能性を感じる現場となりました。ワークショップのコーディネートにあたっては、障害の度合い、言葉の理解、それぞれが抱える悩み、または集団が抱える課題、それらを加味しながら、どんなアートプログラムとの出会いが参加者にとって楽しく、印象に残るものになるかを検討します。一般就労に向けて自分の苦手と向き合いながら、伝え合うことをトレーニングする就労移行、自立訓練という事業所では、今回のようなワークショップは参加者の課題解決に有効だと感じています。

演劇だけでなく、ダンスや音楽など、様々なアートワークショップのアウトリーチについて、福祉の領域では様々なコーディネートの可能性がありそうだと実感しています。今後もアウトリーチというアートととの出会いの現場を深めていきたいと感じました。(及川多香子)