2021.04.16

「世界中を敵に回しても、自分の味方でありつづけたい」よっしゃん|炎に聞く。

 英国・スコットランドと日本・仙台の50歳以上のアマチュアの人たちが創るマルチメディア・ライブ・パフォーマンス、『炎:HONO』。ここではプロジェクトに参加する人たち一人ひとりを「炎」と呼ぶ。命が終わるときまで輝くことをやめない彼ら彼女らが、いま生みだす言葉を、炎に聞く。

自然と湧き出る表現

—炎のワークショップに参加して気づいたことはありましたか?

 

 このプロジェクトを通して、「あ、私も表現したい段階に入ったんだな」とすごく実感しました。もう10年以上、自分の心を見つめる内観を続けていて、自分の心の中はだいぶ分かるようになったんですが、表現をしてこなかった。どうやってしたらいいのかわからなかったんですよね。だけど、自然と気持ちが出ていくようになったのを感じて。感謝も自然と湧き出るものでしょう。そういう本音からの言葉や気持ちは想いがこもってるので、受け手の心臓のあたりにずーんと入って、わーっと広がっていく感じがするんですよね。

 

—なるほど。言葉にはなっていなかったけれど、欲求として、よっしゃんのなかに表現したい気持ちがあったのかもしれませんね。

 

 潜在的な欲求に身体が反応した感覚があります。炎で知り合った入江さんがヒップホップサークルをやっていて、それで「ヒップホップやってみたいかも」と思いました。昔、娘がヒップホップサークルに入っていたんですが、それは、若者がやる路上ダンス、私はただ見る側としか思ってなくて。まさか60歳を過ぎた自分が始めちゃうなんてね。本当に人生って何が起きるか分からなくて面白いです。

 

—スコットランドの人たちとの交流で、印象的だったことはありますか? 

 

 彼らは、自分の内面に真剣に向き合って表現していますよね。本当にすごいと思います。日本人は特質として、恥ずかしさを笑ってごまかすことが多々あるけれど、スコットランドの皆さんは、嘘がない感じがした。いろんな表現もあって、すごく素敵だなと思いました。

「恋慕ふわよ」で生きる

 私は小さな頃から、両親の目を気にしたり、人のご機嫌を伺いながら、生きてきたところがあるんですよね。自分でも気づいていなかったんですが、いっつも生きるのが辛くて辛くて。人生は、理詰めで自分を納得させて生きるものなんだ、とずっと思っていたの。

 

—なるほど。ずっと自分の気持ちに蓋をして生きてこられたんですね。

 

 ジブリの『千と千尋の神隠し』に、カオナシが「千欲しい、千欲しい」って千尋を追い掛けるシーンがあるでしょう。2001年にそれを観た時、あのカオナシが「愛欲しい」っていつも外に対して求めてる私に見えたの。カオナシは実体のない存在で、同じように私も実体がなかった。それにすごくショックを受けたんですよね。日々のことに追われて、自分の内を全く観ないで生きてきたんです。なんか変だなと実感したのは、50歳過ぎた頃。初めて、私は自分の感情が分からなかったんだなと気づいたんです。それで内観を始めたんですね。

 3年程前に「恋慕ふわよ」の感覚に従って生きると決心したんです。「こひしたふわよ」は、「心地よい・惹かれる・しっくりくる・楽しい・腑に落ちる・ワクワク・よろこび」の頭文字をとった言葉。自分の心に問うて、そういう感覚が湧いてきたらやる、湧かなかったら勇気を持って断ると決めて、実践しました。すると、どんどん心が軽くなって生きるのが楽になり、自己肯定感が芽生えて自分のことも好きになってきた。そして、ある時ふと「そうだ!小宇宙とも言われる人間、一番身近な私という人間を絶対的に愛そう」と決めたんです。どんな自分も認めて、受け入れて、赦して、愛しむ。自分の内にエネルギーが満ちてくるのを感じました。世界中を敵に回しても、自分だけは自分の味方であり続けたいなと今は思っています。

 

—すてきです! 歳を重ねることに何か思うことはありますか?

 

 歳を重ねることは「悦び」以外の何ものでもありません。生まれてから自分を守るためと思って、たくさんの殻をまとってがんじがらめにしちゃったのね。それに気付いてから、十何年もかけて1枚ずつ剥いできた。ようやく最後の殻をパッカーンと割って、本来の私が誕生したみたいな感覚で、解放!って感じ。これからは、蝶のように、鳳凰のように、自由に羽ばたくように生きていきたい。

自分に満ち溢れる、よろこびを広げて

—最後に、これからよっしゃんがやっていきたいことはありますか?

 

 これまでもいろんなことをやってきたけれど、はっと思ったのが、全部1人でできることだったんですよね。だけどこの間、人を巻き込んで一緒に夢を持って楽しんでやることを初めて体験して。やっぱり他者に意識を向けがちになるけれど、そういうときこそ、自分の内を大切にしないといけないなと感じました。

 自分を蔑ろにして他人ばかり気に掛けてると疲れるんですよね。意識のベクトルを自分の外から内へと変えてみると、あら不思議。どんな自分でも受け入れると、生きやすくなるしどんどん内からエネルギーが湧いてくるようになるんです。とても実感しています。だからこういう在り方を、生きるのが辛いと感じている子ども達やたくさんの方々にお伝えできたらいいなと思うんですよね。

 自分という器が幸せやよろこびで満たされると、それらは必ずひとりでに外へ溢れ出る。そんな人が増えていけば、世の中は幸せで満ち溢れるでしょう。なので、これからも自分を愛することを一所懸命やって、飽き足らなくなったら宇宙全体を愛したいと想っています。

あとがき

 よっしゃんと話す時間は、とても心地よい。その心地よいエネルギーのありかはきっと、自分から溢れ出たものを受け入れ、楽しむ、そんな姿勢にあるんだろう。彼女が生み出す言葉や空気は、すうっと私の中に入っていき、やさしくあたたかな力に変わっていく。そんな気がします。

文・写真:熊谷麻那(くまがい・まな)

1998年3月生まれ。編集者。フリーペーパー「炎:HONO」編集にも携わる。物語を感じるものことの編集をしています。

 

インタビュー:大河原芙由子(PLAY ART!せんだい)

 マルチ・メディア・パフォーマンス『炎:HONO』は、2021年10月24日に上演予定。過去、現在、そして未来への希望を探り、人生や歳を重ねることについての物語を捉え直していく、炎たちの姿をぜひ感じに来てください。

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