2021.06.02

「これからも楽しんでいこうねって自分をかわいがってあげたい」刈谷彰子さん|炎に聞く。

 英国・スコットランドと日本・仙台の50歳以上の俳優ではないアマチュアの人たちが創るマルチメディア・ライブ・パフォーマンス、『炎:HONO』。ここではプロジェクトに参加する人たち一人ひとりを「炎」と呼ぶ。命が終わるときまで、輝くことをやめない彼ら。いま生みだす言葉を、炎に聞く。

伊達に歳をとっていないなって思えました

― 刈谷さんがHONOに参加した理由をおしえていただけますか?

 

50年以上生きてきましたが、これまでを振り返ることがあまりなく生きてきたような気がします。ずっと前だけを見て突っ走ってきた。子育ても終わりいろんなことが一段落して、今一度、自分の人生のことを考えてみたいと思ったんです。これまでのことを振り返りながら、これからのことも自分でクリエイトしてみたい、と。

 

はたから見ると私はアクティブに見えるらしいんですが、実際はそんなことなくて、まだまだ臆病な自分もいるんですよ。一番したいことに踏み出したことが、あまりなかったような気がします。HONOに参加するのも、臆病な自分が引き止めようとしたんですが、でも一歩踏み出したら世界が変わるなと直観して、勇気を出して踏み出してみることに。新しい世界が拓けた!という感じがありましたね。

―うれしいです。ワークショップに参加して、気づきや印象的だったことはありますか?

 

今までいかに脳を使ってこなかったんだろう!と気づきました。新鮮な体験ばかりで、動かしたことがない脳の部分が動いた気がして、汗をかきました。即興的なワークショップには最初、ドキドキのほうが大きくて、集中できない、どうしようどうしようと思っていました。だけど慣れると楽しくて、じゃあこここだわってみようかと思えてきたり。自分の引き出しを持てているんだなとわかっていったんです。

 

― 自分の引き出し、ですか?

 

こんな引き出しを持てているのは、50年生きてきたからだと思えたんですよ。今まで生きてきて、いったい自分は何をしていたんだろう、何も持っていないなと思う瞬間が、やっぱりあるんですよね。だけど、何にもないと思っていた自分の中に、今まで気づいていなかった引き出しが、意外にあるじゃん!伊達に歳をとっていないな、とワークショップを通して思えたんです。この歳になって、やってよかったなと思っています。

―皆さん、いろいろな引き出しを持っていますよね。本当に、面白いです。

 

参加者の皆さんに出会えたのも、すごく面白かったですね。80歳の櫻さんはじめ、皆さん、持っているものが、もう本当にすごい。そんなものを眠らせていたらもったいない!と思える人たちと出会うことができて本当によかったです。

 

皆さんの考え方にもいい影響を受けました。例えば、何かを選ぶときには、ネガティブなほうじゃなく、楽しそうなほうを選ぶ。やらないよりはやったほうがいい、とか。若い頃は楽しいことを選ぶことになんとなく罪悪感があって、もっとやらなきゃいけないことがほかにあるんじゃない?という考え方があったけど、最近は、残り少ない人生、楽しく生きていったほうがいいじゃん、と思えるようになったんですよね。躊躇しちゃう自分はまだまだいますが、躊躇で終わらせないで進んでみよう、と背中を押してもらえている気がします。

20%の不安と、80%のワクワク

―歳を重ねることについては、どんなことを感じていますか?

 

20%の不安と80%のワクワクですね。歳を重ねると実際、できないことは増えてくるんですよ。手も悪くなってきているし、老眼鏡を使わないと文字は読めない。動体視力が鈍っているから、字幕に追いつかないことも結構あって。ああ、歳をとったなという不安がある。

でもそれ以上に、まだ新しいこともできるんだとも分かってきました。これからもきっと楽しんでいけるんだろうなってワクワクが80%。でも子供みたいに時間があるわけじゃないから、物事を鋭く取捨選択するようにもなりました。

 

―確かに、物事に対する自分の嗅覚もだんだん研ぎ澄まされてきますよね。

 

老いを認めながらも、新しいことに挑戦できて、ズバズバッと決めていける。すごくワクワクしますね。新しいことがどんどんできるんだろうなと思える自分が頼もしいです。かわいがってあげようと思いますね。これからも楽しんでいこうねって。

 

― 刈谷さんが、今一番情熱をかけてやっていることは何ですか?

 

アルゼンチンタンゴです。この歳になって、身体の改造ができるのは、とっても面白いですよ。今それにすごく夢中になっています。自分の中には、まだまだ眠っている動きがあるんですって。旦那も66歳ですが、いまだに一緒に発掘しているんですよ。結婚して30年経ちますが、新鮮で刺激的で、本当に面白いんです。

あとがき

 刈谷さんからは会うたびに、あたたかく、やわらかな空気を感じる。それはきっと、躊躇しながらも未来に向かい、自分の心が呼ぶほうへ進んできた人ならではの空気のように思う。これからもワクワクするほうへ進みつづける刈谷さんに、私も背中を押され、やわらかな一歩を踏み出せそうな気がします。

 マルチ・メディア・パフォーマンス『炎:HONO』は、2021年10月24日に上演予定。過去、現在、そして未来への希望を探り、人生や歳を重ねることについての物語を捉え直していく、炎たちの姿をぜひ感じに来てください。

文・写真:熊谷麻那(くまがい・まな)

1998年3月生まれ。編集者。フリーペーパー「炎:HONO」編集にも携わる。物語を感じるものことの編集をしています。

 

インタビュー:大河原芙由子(PLAY ART!せんだい)

 マルチ・メディア・パフォーマンス『炎:HONO』は、2021年10月24日に上演予定。過去、現在、そして未来への希望を探り、人生や歳を重ねることについての物語を捉え直していく、炎たちの姿をぜひ感じに来てください。