2021.10.19

「どんなものになるかわからない、を楽しみたい」石岡博之さん|HONOに聞く。

 英国・スコットランドと日本・仙台の50歳以上の俳優ではないアマチュアの人たちが創るマルチメディア・ライブ・パフォーマンス、『炎:HONO』。ここではプロジェクトに参加する人たち一人ひとりを「炎」と呼ぶ。命が終わるときまで、輝くことをやめない彼ら。いま生みだす言葉を、炎に聞く。

パワーも経験も、まだまだ足りない

― プロジェクトに参加してみて、いかがですか?

 

 自分は56歳になるのですが、参加者のなかで一番年下なんですよね。自分では歳をとってきたと思っていましたが、同じ参加者の彼女彼らに比べたら、まだまだパワーも経験も何も足りないんだなと感じました。皆さんに会うと圧倒されて。参加しなかったらこんなこと感じられなかったので、得難い体験です。

 

 4人で仕切りを挟んで行なったワークショップ(2020年夏に行った演劇ワークショップ「Frames」)がすごく面白かった。こんなに近くにいるのに触れ合えない体験はそれまでなかったですからね。また、人の話や想いを聞くことで、自分の中に隠れ眠っていた気持ちや感情が揺り動かされることがありました。あれは、面白かったな。

― ワークショップでの気づきが、自分の日常生活に反映されたことはありますか?

 

 自分とほかの人は考え方も感じ方もそれぞれ違うんだということを、あらためて感じる機会になりましたね。例えば、受け入れられない意見があったとしても、それはそれで尊重したり存在を認識したりする必要がある。それは難しくもあるけど、面白くもあるなと思います。 また、自分は仕事で博物館の館長をしているのですが、ついこの間、博物館ロビーで怪談の会をひらきました。ただ怪談を聞くだけではなくて、人の話を聞くと、自分の心の中に眠っていた体験が出てくるという気づきを踏まえてやってみた。そういう意味でも炎のワークショップはとても参考になり、よかったですね。

どんなものになるかわからない、を楽しみたい。

 

― 年齢を重ねることについて、何か思うことはありますか?

 

自分は、仕事として新しい企画を考えることも好きですし、演劇はやることも観ることも好きです。でも結局、何かをやるんだと思いながら、何もしないままダラダラと生きてきた部分があって。大器晩成という言葉がありますよね。だから時間がかかるものなのだ、と逃げていたところがあるんです。でも、いよいよ歳を重ねてきたので、逃げてばかりもいられない。自分でやれることをやろう、と50歳くらいのときに開き直りました。それで50歳をすぎてから、もともと好きだった演劇に片足を突っ込んでみたり、文章も投稿してみたり。

 

― 50歳に何かきっかけがあったのですか?

 

 特にこれという理由はないのですが、定年退職にならないうちに何か形にしたいなと思ったんです。第2の人生や余生と言われる前に、ある程度実体験を積みたい。年齢を重ねると体が効かなくなるという部分も理由にはあるんですが、今が潮時、最後のチャンスだ!と思ったんですよね。

 

 この間、元部下と電話で話していたら、「そういえば、昔から新しいことをやるのが好きでしたよね」と言われました。そういう意識はこれっぽっちもないのですが、そういえば仕事で異動した先々でいろんな事業を立ち上げたりイベントを企画したりする機会が多かった。演劇にしても、新しいものを作ることは一緒じゃないですか。それで満たされていた部分もあったのかもしれません。

 

― 石岡さんはこれまでも演劇をやられてきていますが、今回はいわゆる台本がある演劇とは違う作品になります。それについて、楽しみなことや不安なことはありますか?

 

 自分はエチュード(即興性)のある演劇が、緊張感があって好きなので、今回の演劇は、どんなパフォーマンスになるんだろう、と楽しみです。雑然としちゃうかもしれないけども、そういう考え方も面白い。予定調和ではない、自分たちで創るステージ。「どんなものになるかわからない」ことを楽しみたいなと思います。何かをつくりあげている最中が一番面白いと思うので、濃密な今も大事に、楽しんで本番を迎えたいです。

あとがき

石岡さんは、とても強い人だなと思う。どんなことになるかわからない、は実際とっても不安なことだろう。自分から何が飛び出すか、関わる他者から何が生まれるか、わからない。それはきっと生きている今、も同じことで、だからわたしたちは漠然とした不安を抱え続けている。石岡さんは、その緊張感も知りながら、たのしもうとできる人だ。本番、彼がどんな姿でステージに立っているのか、はやく観てみたい。

文・写真:熊谷麻那(くまがい・まな)

1998年3月生まれ。編集者。フリーペーパー「炎:HONO」編集にも携わる。物語を感じるものことの編集をしています。

 

インタビュー:大河原芙由子(PLAY ART!せんだい)

マルチ・メディア・パフォーマンス『炎:HONO』は、2021年10月24日に上演予定。過去、現在、そして未来への希望を探り、人生や歳を重ねることについての物語を捉え直していく、炎たちの姿をぜひ感じに来てください。

 

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2021年度仙台市文化プログラム

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