2021.09.15
「風が通り、心が遊びまわる時を生きる」山内裕子さん|炎に聞く。
英国・スコットランドと日本・仙台の50歳以上の俳優ではないアマチュアの人たちが創るマルチメディア・ライブ・パフォーマンス、『炎:HONO』。ここではプロジェクトに参加する人たち一人ひとりを「炎」と呼ぶ。命が終わるときまで、輝くことをやめない彼ら。いま生みだす言葉を、炎に聞く。
心が遊びまわっていく
― HONOのワークショップに参加した際、どんなことを感じましたか?
初めてワークショップに行った時は、とても緊張して会場に入りました。すると、演出の大河原凖介さんが「playは演じるのではなく、ただ遊ぶだけでいいんですよ!」って言ってくださったんですよ。この歳の私が、いろいろな枠を取り払って子どものようにワクワクするだけでいいんだ。スゴイ!と、急に楽になったことを覚えています。同じく演出のみかささんは静かで優しい目で迎えてくださいました。心がだんだんとほぐれてきて、「今の気分の色はなに?」と問うてくださった。「社会の枠の中でのおしゃべりをしなくていい。舞い上がっていろいろ変になっていろいろ間違ってもかまわない」というメッセージをもらって、自分の奥のほうがフワーっと軽くなり、心が遊びまわっていくのが感じられました。
―ワークショップは、初めて会うほかの参加者の方たちと一緒に活動しますが、それはどういう体験だったでしょうか?
ワークショップを通して、言葉ではない方法でわかりあっていくことに喜びを感じました。身体の表現、気持ちの表現で、その方たちの雰囲気や想いが伝わってきた。こんなふうに誰かと知り合えるなんて。存在感や雰囲気を感じながら他者をわかっていく。こんなこと初めて!と心が喜んだことを覚えています。
私の頭は時間を自由に行き来して
私たちは、長年生きてきて、いろいろ体験し、いろいろな思いを重ねてきました。今近くにいる人々やもうどこにもいない人々、生きてはいてももう長らく会っていない人々との大切な思い出が、時々脳裏に浮かんでは消えて、そんな繰り返しを続けては、生きています。私の頭は時間を自由に行き来して、小さな頃の家の匂い、さまざまな匂いや、流れてくる音楽、いろいろなことに刺激されて、想いは飛び回る。
自分でもわからないほど数々の思い出が潜んでいるんですね。表現していいんだよ!と助言してもらえなければ、引き出しの奥に隠してしまったり、忘却してしまったりするようなことなんです。助言してもらえて、そのままの私を出せているとき、それらが煙のようにふうっと出てきました。その時、少しだけ自分が自由になれた気がしましたね。
たくさんの引き出しが、いろいろなことを教えてくれる
― 歳を重ねることにはどんなことを感じていますか?
なかなか1つの気持ちではいられませんね。1日の中でも、感情がいろいろ変わるように、いい気持ちになったり、具合の悪い気持ちになったりしています。でも、どちらも私には必要な感情なのだと思います。
これまで、よかったことも嫌だったことも経験してきて、きっと、私もいつの間にかいろいろ傷ついてきたのでしょうね。いろいろな経験からたくさんの引き出しが、いつのまにかできてしまっていて、突然忘れられた引き出しが、ボーン!と空いて考え込んでしまうこともあります。それは歳を重ね、経験を重ねてきたからこそでしょう。でも、確かにこのたくさんの引き出しが、今も、いろんなことを私に教えてくれるんです。他の方の引き出しからも、いろいろ教えてもらいたいなぁ、と感じています。
― 最後に、今情熱をかけてやっていることを教えてください。
私に、情熱なんてあるのかなあ?
きっと、心の底には、まだまだ何かに向かっていたい、喜びを感じたい、いろんな炎があるはずです。あぁ、だから、発散し続けていきたいですね。私の気持ちが、心地良いと感じたとき、その時が私の炎の発散です。くだらないことなんてありません。心の底にある炎を感じ、発散して、これからも生きていきたいです。
あとがき
山内さんの言葉は風が通るように心地いい。良いも悪いもなく、自分をただただ受け止める姿勢。心に素直であり続けた態度が、そう感じさせるのかもしれない。そこにいるだけで、心地いい。そんな人に私もいつか、なれるだろうか。
文・写真:熊谷麻那(くまがい・まな)
1998年3月生まれ。編集者。フリーペーパー「炎:HONO」編集にも携わる。物語を感じるものことの編集をしています。
インタビュー:大河原芙由子(PLAY ART!せんだい)
マルチ・メディア・パフォーマンス『炎:HONO』は、2021年10月24日に上演予定。過去、現在、そして未来への希望を探り、人生や歳を重ねることについての物語を捉え直していく、炎たちの姿をぜひ感じに来てください。
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