2021.03.31

#DontStopTheFlames 映像上映&トークイベント

3月16日に、スコットランドのTricky Hatと英日の50歳以上の人たち=炎と進めてきた映像創作活動 #DontStopTheFlamesの映像上映&トークイベントを行いました。プロジェクトの成り立ちから、これまで作った作品のダイジェストの紹介、トリッキー・ハットのフィオナ・ミラーさんからのビデオメッセージの上映、そして参加した9名の炎によるトークと盛りだくさんの内容でした。トークの聴き手は、詩人の武田こうじさんにお願いしました。プロジェクトに参加しての感想や、創作過程、それぞれの変化等々について、武田さんが、豊かにお話を聴いてくださいました。以下、参加者の発言をメインにレポートします。


トーク1

海野佳子さん、平山裕子さん、梅室邦夫さん


海野:震災後は海は怖くて行けなかったのですが、ドキドキしながら行って。カメラマンからああしてください、こうしてくださいと言われて、何も考えずに動いたんです。本当に久しぶりの海はすごく気持ちよくて、海と空と私が一体になっているかのような、そんな気分で撮影が終わりました。堤防ができていて、海を見たときと、堤防から町のほうを見た時と、全然気分が違かったのが自分の中では発見でした。

平山:『海と海』は参加していないのですが、もし海に行っていたら、私、震災よりずっと前に、ちょっと深いところでいろいろあって、撮影できなかったんじゃないかと思います。『前例のない』の時は、1対1でカメラマンと向かい合って、人前では今まで話さなかった自分の人生の思いを言っちゃったんですね。不思議に言えた雰囲気で。思ってきたことを言えて私はすっきりしたのですが、周りの方はいたく感動してくれて、うれしく思いました。そういう場がなかったら、一生話さなかったと思います。



梅室:演劇っていうと、最初にテーマや役があるというのを想像していました。ですが、「目の前を歩いてください」「そこで止まって」とカメラマンに言われて、どう自分自身を表現したらいいのか、正直、非常に戸惑いました。でも映像を見て、こういうふうに表現されるんだなという、また別の面での面白さが感じられました。作られたものの中で演出するのではなく、私たちが皆、ふだんの生活の中で表現していることから作品を創る。皆、ふだんから表現しているんですよね。 撮影している方々が、やっぱり私たちを乗せるんですよね。おだてられるとついつい乗って、自分でも表現を工夫しようと思う。


武田:僕も詩を書いているのですが、詩って思いついたまま書いていると思われるかもしれないですが、実は同じで、形にしていく過程でいろんな段階を踏むんですよね。とても興味深く話を伺いました。ワークショップ中というのは、皆さんどういうことを考えていたのでしょうか? ズームでのワークショップもあったんですよね。



海野:私はふつうの専業主婦なので、ズームをやることなんて想像したこともなかった。家にいながら、スコットランドの人とつながってワークショップをするというのがすごく新鮮で、面白かったです。岡本太郎さんが、「芸術は爆発だ!」と言いましたけど、炎を通して、「生活は爆発だ!」という感じ、爆発してきた感じがあります。


平山:私もアナログ人間なのですが、ズームでスコットランドの方と顔を合わせられるのはすごく新鮮でした。そういうツールも、拒否してるだけではなくて、いろんな表現が伝わることもある。相手に触れないということに戸惑いはありましたが、聞く、見る、動くはできますからね。楽しかったです。



梅室:コロナで人と会う機会が少なくなりましたが、リアルな場で行ったワークショップは、コミュニケーション、人と人とのつながり、近さを作るための場だったと思います。ズームでのワークショップは、画像でしか知らなかったスコットランドの参加者がより身近に感じられましたね。



武田:やっぱりズームというのがコロナと共に需要が出てきたものであり、距離感が変わって、皆さんが得たものがすごくあると思います。本来であればこのプロジェクトは終わってたものが、結果的に今、まだ途中なんですが、プロジェクト全体の感想、参加してみて今どういうふうに考えているか、一言ずつ伺っていいでしょうか?



海野:私は長い間、自分の人生なのに、それを舞台の袖から眺めているような感覚があったんですよね。大事な人生の操縦席を、誰かほかの人に委ねて生きてきたと思うんです。炎に参加し始めた時には、はっきりとした自覚はなかったのですが、だんだん、「あ、私は自分の人生の舞台に立っている!」という感覚になることができて、すごくうれしいです。今はね、マイブームは自分。いつも、今の自分が過去のどの自分よりも一番好きです。60歳を過ぎて、本当にこんな気持ちになれたから、年齢を重ねるってすばらしいことだなと思います。



平山:炎って暗い中でもすごく光っている。そんな感じの心の思いを話せたことがとてもよくて、なんだか爽やかな気持ちです。今まではしゃべる必要もないと思っていたのだけど。炎のメンバーと出会って、それぞれ、シニアだからこそのいろんな人生が皆さんある。それを垣間見れたのは、私のこれからの人生の大きな力になると思います。

梅室:炎。燃え尽きる。それを50歳からの人間たちが集まってやる。今回のこのメンバー、すごいですね。本当に人生を楽しんでいる。「今度演劇観に行くわ」「誰々の歌を聴きに行くわ」と集まって楽しく話している。ふつう我々の年代が集まると、「俺の孫はよ」「あそこ痛くてよ」「薬何飲んでる?」となるのですが、そんな言葉が一言も出ないんですね。集団でそういうふうに前向きに人生を楽しんでいるということは、すごく刺激になっています。私もどんどん、これからの余生も燃え尽きたいですね。


Tricky Hatフィオナ・ミラーさんからのビデオメッセージ上映


トーク2

刈谷彰子さん、金城良子さん、小山真紀子さん

武田:まず刈谷さんから、作品に出た感想を伺ってもいいでしょうか。



刈谷:最初、『レジリエンス』という題名を辞書で引いてみたら、回復力とか反発力とあり、私がイメージしたのは雪の中の竹やぶでした。竹って雪の重みで倒れてもまた戻るじゃないですか。狭い空間で、黒い雰囲気で撮るというお題も出されて、どうしたらいいんだろうと思いながら、映像のようなイメージになりました。特に、自分のターニングポイントを語る形になりました。私は東京出身なのですが、仙台に来て、今生きているこの空間、この時間というものをもう1回見つめ直す機会になったかな。作品は、抽象的で、暗いしサスペンス風だったので最初は消化不良でしたが、何回も観ていくうちに、しっくりストンと落ち着いてくるようでした。

金城:『レジリエンス』の課題は、私のキャパにないことばっかり。自撮りしなさい、狭いところ3カ所で撮る、暗いところで撮る、文章も自分で考える。できませんって言えばよかったなと後悔しながら、でもこの1年面白いワークを受けさせてもらったので、義理を返さなきゃいけないと頑張りました。本当に、私の全ては、親を亡くしたことで生きてきたんですね。この歳になってもそれが底辺にあって、生きる力を培ってきたということを今回再確認できて、すごく今は感謝しています。自分の喜びは両親の子供に生まれたこと、悲しみは両親を亡くしたこと以外にないので、どんなことでも耐えていける。語るシーンが3つあるのですが、文章を書き終えて、読んでしまえば1分の文章なのですが、自分の集大成を書いたような気がしました。あと、私ふだん、とてもしゃべるのが早いので、ゆっくりしゃべることの勉強になりました。

小山:私は、『HUG ME』という作品に自撮りした映像をたくさん使ってもらいました。作品を観て、自然と一体化なるっていうようなことを感じたんです。私も東京で育って、29歳で仙台に来ました。東京は自然もなくて時間に追われている生活。それが仙台に来て、緑もいっぱいあるし、1時間も行けば海があるし、子供と一緒にゆったりと時間を過ごした。うちの庭に太い桜の木があって、30年前からすごく大きくなったのですが、そこで私は『HUG』の表現をしたのですが、木の精霊とか自然の心、そういうものを感じました。映像で自分を表現するには、自分の心を大事にしなければいけないなと感じました。

武田:ワークショップを通して、自分での撮影を通してでも、一連のプロジェクトについての感想をもう少し伺ってもいいですか?



刈谷:私は子育ても終わり、主人は単身赴任で、気がつけば1人。そんな中でこのプロジェクトに出会いました。今まで、あまり考えないで生きてきたかなというのがあったのですが、ちょっと立ち止まって、自分って何だろうって考えてみたくなったんですね。自分でクリエイトしてみたくなった。中に溜まっているものがあったのかな? それにも気がつかなかったのですが、身体がムズムズしているみたいな感覚になって。いろんなワークショップを受けて、今までこんなに脳みそ使っていなかったんだな、こんなことができるんだとか、あらためて感じました。老いについては、20%の不安と80%のワクワク感で、それを持ってこれからも進んでいきたいです。



金城:2020年4月の公演が中止になったおかげで、それまでは仲間の顔と名前も一致していなかったけど、今は顔と名前と、ちょっと性格も理解できました。10月の舞台公演は、今はちょっと楽しみ。フリーペーパーに、「挑戦する老い」と私のインタビューが載っているのですが、決して老いには挑戦していません。ちょっと言い訳させてください。でもおかげで、ふと気づいたのですが、このワークショップに参加して「歳を取る」ことを教えてもらいました。歳を取り去る。歳をとったから私はアナログなのよとか、年齢を言い訳にしないこと。歳を取れることに気づかせてもらって、本当に感謝しています。



小山:私は今71歳なのですが、70歳になったら今までやったことがないことにトライしようと思っていたんです。演劇経験は、小学校の学芸会で「よし、頑張るぞ」というセリフを言っただけ。炎に参加して、自分で撮影する、音声をボイスレコーダーに入れるとか、すごく分野が広がったんですね。映像に映るので、靴下は赤、パンツは紺にしようとか考えて、髪の毛は黒いほうがよかったかなと染めたりもして、自分に挑戦してたの。それがすごく喜びになって、少しずつ自信も持ててきているのはすごいなと思います。『HUG ME』のセルフの撮影は、服装も考えて、炎だから暖炉に抱きつくのもいいなと思って自分で構成しました。人間関係も、誰も知らないところから作るのは難しかったけど、自然に仲良くなって、すごく楽しい活動でした。


トーク3

高橋櫻さん、石岡弘之さん、入江徳子さん


高橋:ワークショップや撮影が終わったあと、毎回「私、何やってんのかな?」と、気持ちが落ち着かない。原因はどこかなと思うと、私はフィオナに会ってないのね。彼女の考え方がわかってない。人って目の前にいて体温を感じないとだめ。そういうものを感じて、コミュニケーションが取れると思います。炎のプロジェクトに参加した理由は、今までの商業演劇とかとは全く違う、自分たちの気持ちを持ち寄って紡ぎ出した物語をやるというのに引っ掛かりがあった。ここの扉を叩いたら、自分の本当の姿を見られる、私の居場所があるんじゃないかと思った。炎で出会った人は、みんなすばらしいんですよ。伝えることというのは、すごく難しいんだと思う。私は意に沿わないことをいっぱいやってきたけど、ここで生き直すと決めたんだから、もう意に沿わないことを言ったり大人の対応はしたくないんです。

石岡:今55歳で、自分と同じような年齢の方がいると思って参加したのですが、諸先輩方がいっぱいいて、私がほぼ最年少。まだまだ修行が足りないなと。自分が映っている映像を観ると、一生懸命違う動きをしようとしても、パターン化された、自分の動きから逸脱していないという部分があって、そこは内心忸怩たる思いです。ずっと、演劇のリアルというのが自分の中で受け入れられなくて。50過ぎてから演劇をちょっとかじってやり始めたんですよ。青森県で一番有名な劇作家に「お前は役者に向いていない」と烙印を押され、いろんなところに機会があれば行って、仙台のこちらのワークショップも受けて炎に参加したという流れです。さっき、フィオナさんが誠実という言葉をくり返し言っていたのですが、翻って、自分は誠実じゃなかったんじゃないかという思いが出てきました。皆さんの言葉や炎の取り組みに対する姿勢に比べれば、私はまだまだ薄っぺらいんじゃないか。これから燃やしていきたいと思いました。

入江:以前、エアギターをやり始めた時に、どうしても四角いお弁当箱にはまったようなやり方しかできない、パーンと弾けるようなものができなかったんです。演劇を勉強してみたらそういうことができるのかなと思った。実際にやってみると、台本もなく、私も櫻さんと同じように、いつも迷うような状態を続けている感じでした。例えば、怒りを伝えてと言われた時に、すごく短い時間で考えなきゃいけないんですね。炎に参加して、自分の本当ってなんだろう、本当に怒ってるのはなんだろうって、自分をすごく見るようになってきた。できた作品はまるで人ごとのように観ていて、自分が何かを表現したことについて、ぐずぐず振り返る時間が多いのですが、その中で整理できてきたことがある。Flameは炎だけど、カタカナのフレーム(Frame)は「枠」。自分で枠を一生懸命作ったり枠の中で安心してホッとしたいんだなと。役割とか言われたこと、そういう枠を、やっぱり燃やしちゃおうという整理はできた。仲間は、すごく皆さん素敵な方で、意見に共感したり、目標にしていきたい先輩も、若くてもしっかり考えている方もいらしたり、これから生きていくための学びをいただいています。

武田:自分の人生を袖からみている感じだったとか、自分のターニングポイントを知る機会になっている、自分が誠実ではないんじゃないか、フレームという枠を外そうと思いながら枠を感じているとか、葛藤を感じているっていうのは、本人たちからしたらモヤモヤしたり悩ましいことかもしれないのですが、やはり結果は作品になっていくので、すごく大事なことだなと思いました。最後に一言ずつ、もう一回りしたいと思うのですが、櫻さんどうですか?



高橋:ごめんなさい、ちょっとまとまんない。このプロジェクトに参加して、間違いはなかった。これからだと思っています。今、出発点。コロナのおかげで1年以上の期間があったから、ものすごくみんなの距離が縮まって、毎回、毎日ワクワクドキドキ。それだけでも参加した意味があったし。これからの可能性を感じます。歳なんかとってらんない。



石岡:10月は1週間ワークショップやった上で公演になるのですが、たぶん、公演というのは単なる結果であって、その前の1週間が、参加している私たちに一番重要で、ぶっちゃけて言うと面白い時間だと思うんですよ。何かにつまづいたり何かを見つけたり、そういうのを繰り返して最終的に発表になるのですが、そこをドキュメントに撮ってまとめたほうがいいと思います。



入江:楽しいっていうのはすごい大切だと思っているので、楽しみながら自分の枠を、もしかしたら新しく作るのかもしれないと思いつつ、炎の活動を自分のこの先の生きていく中の1つのステップにしていけたらと思っています。


会場からのご感想

—スコットランドと日本の皆さんで映像を作って、しかもテレビやYouTubeを付けるとよくあるような作品ではなく、新しく見たことのないような切り口で。最後の『HUG』もすごく抽象的な作品で、物語性のある、広がる作品。ダンス寄りの、身体の表現で多様な表現をされているものを皆さん作り上げたんだなということを感じました。10月もまだまだ油断は許さないと思いますし、もちろんフィオナさんが来たほうがいいのですが、もし来られなくてもオンラインで双方向ですごくいい作品が作れるんじゃないかなと思いました。この1年間が、充実した時間と経験と、フィオナさんが言っていたような信頼みたいなものが築けていたということに、すごく感動しました。



—全体的にすごくおしゃれだなと思いました。参加されている皆さんもすっごくおしゃれで、1人1人が輝いていて。特に私の友達の海野さんは、2年前から比べたら考えられないぐらい変わって。自分を大好きになっているということが、素敵だなと思います。心を育てるというか、そういうことを皆さんやってらっしゃるのかなと、今日は感動しました。



—友人の金城さんから聞いてはいたのですが、何のプロジェクトに参加してるんだろうと思っていました。お芝居の形が変わっていて、外国とのセッション、歳を重ねた人が自分の人生を語るということなど、とても面白く観させていただきました。金城さんも、自分の生い立ちなどを振り返って、あらためて見直しながらも、やっぱりいつも前を向いてるなという感じがしました。

Supported by CreativeScotland & BritishCouncil Scotland

日本側のプロジェクトは、2020年度仙台市文化プログラムの一環で、仙台市と仙台市市民文化事業団との共催で実施しました。

(2021年3月16日 青葉の風テラス)

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