2021.12.15

「英国の年配者と舞台芸術シーンの現在〜スコットランドの状況から」 プレイアート・ラボ vol.3 開催レポート(後編)

10月9日(土)に開催された、プレイアート・ラボ 第3回の開催レポート。

今回は、2019年から、PLAY ART!せんだいがご縁をいただき、共同で年配者との舞台創作プロジェクトを行なっている、英国・スコットランドのカンパニー、トリッキー・ハットのフィオナ・ミラーさんと、スコットランドの文化芸術シーンを幅広く支えるクリエイティブ・スコットランドのローナ・ダギッドさんに、英国の年配者と舞台芸術シーンの現在について、お話を伺いました。

仙台における年配者とのアート活動をどう始めていけるか、考える機会となれば幸いです。

(前編はこちらから)

【スピーカー】

フィオナ・ミラー(トリッキー・ハット)

ローナ・ダギッド(クリエイティブ・スコットランド)

 

【案内役】
大河原芙由子(PLAY ART!せんだい)

参加者に耳を傾けて、作品を作る

フィオナ:先ほど申し上げたゲリラセッション(ワークショップ)。あれはまさに入り口みたいなもので、そこで私たちの創作活動を体験して続けたいという人は「The Flames(Tricky Hatが2016年からはじめている年配者のための舞台創作プロジェクトー)」のメンバーになっていくんです。Flamesの一員になった人は、ほかのイベントごとにも呼ばれるようになる。

 

スコットランドの地方を回る機会に今まで我々がやったことがない新しいアイディアを試していったり、Flamesという団体をどうやって大きくするかとみんなで考えたり。そういった機会にはFlamesのメンバーにも参加してもらったりしています。

 

例えば、スコットランドのウィッグという場所でやったワークショップでは、「リスク」を考えていこうというお題を設定しました。ここでは、ロビーシンというダンサーを招聘しました。ロビーシンは身体的なリスクを考えていく人です。椅子にはしごを添えてお互いバランスをとり合って、どこまでバランスをとっていっているのかを試すことを、みんなでしてみたんです。これは、身体的なリスクですよね。そこから作品が生まれたりします。こういったワークショップでやっていたことが、最終的にライブの生のパフォーマンスという形に転換されていきます。

 

例えば、この女性。この人にとってのリスクは、オーディエンスの前に立つことだった。彼女は、「パフォーマンス中に紙袋をかぶったままでいい?」と聞いてきたんですよ。だからこの人はパフォーマンス中、紙袋を頭に乗っけたまま。周りが見えなくなるので、他のパフォーマーは、この人が怪我しないように安全な状態を何とかつくっていくことがパフォーマンスになっていきました。このように、アーティストとして、参加してくる人たちの言うことに耳を傾けて、言いたいことをその作品の一部にしていくやり方をしてます。

物語は、参加者の人生から生まれる

作品をつくる上で、媒体にはこだわりません。録画された映像であったり、音であったり音楽だったりを使いますし、身体的な動きであったり、あと言葉。さまざまなもの、要素を使って作品を作っています。

 

作品の中での物語、参加してくれた人たちの希望を考えたときに、この部分に関してはやっぱり言葉を画面に投影したほうがいいんじゃないか、プロジェクションしたほうがいいんじゃないか、ここは音楽で表したほうがいいんじゃないか。そうやって考えながら、本当にさまざまな形態の媒体を使って作品を作ってます。

Flamesの作品の展開においては、何が正しい、何が間違ってるなどはないんです。パフォーマンス中に起きたことは起きたこと、という程度でアプローチしている。参加者の物語がストーリーになっていくわけですよね。参加者は自分の物語に対しては、自分の人生で考えていけばいい。自分の人生のエキスパート、その物語のエキスパートなので。作品としての流れがだいたい同じであれば、細かいところはあんまりコントロールしてないんですよ。

 

リハーサルはあんまり多くやりません。だから毎回同じ形にならないでポイントポイントで違う状況になり、それぞれが違うことに対してリアクションをとっていく、反応していく。このタイミングに合った映像が入る、このタイムになったら音が音楽が流れる、そういう基本的な構造は残しますが、結構ゆるくやっていますね。

 

そうすることによって毎回作品が新鮮なんです。演じるために新鮮であるし正直であるし、本当にリアルな作品になっています。参加してくれる人たちに対しては、「演じろ」とは言わないんですね。ほとんどの人はアクト、演技ができない。ただ、パフォーマンスはできるんですよね。

観客からの声、これからのFlames

作品を見てくださっている方たちからも、正直な部分、本音が伝わってくるという声があります。やっぱり作られたものよりも、本当に本音でぶつかってきてくれた作品なので、観衆からも本音のフィードバックをいただけるような気がします。

 

例えば数字的な評価をしてみると、94%のFlamesに参加してくれた人たちは、参加することが、自分の精神状態の健康をより良く保つことに非常に有用であったと言っています。

 

観客の人たちからの言葉にはこんなものがあります。

「本当に美しく作り上げられていて、作品の作られ方もすばらしく、展開のされ方も予期されるような形の展開なんだけれども、パフォーマンスとして何か動きがあって、ダイナミックで、本当に良かった」

「パフォーマンスとして面白かったです。演じている人たちが年齢も年齢なので柔らかい感じがしつつも、ただ同時に研ぎ澄まされた部分もあって、ステージ上で年配者の声を聞く機会は非常によかった」

 

今後は、Flamesに参加してくれる人たちの中で、「自分たちの作品を展開したい」という人たちが出てきているので、そういった人たちに対して、どういうふうにパフォーマンスを今後展開していくのか、考えているところです。それから、スコットランドの中を、ツアーとして回りたい。また、日本以外のほかの国々の人たちともお話をして、どういった形でコラボレーションができるのかもいろいろと考えています。

参加者からの質問に対して

Q1:コロナ禍での孤立孤独の問題に対して、スコットランドではどんな取り組みが行われていましたか?  

フィオナ:コロナ禍のスコットランドは、世界のほかの地域と同じように難しい状況でした。特にアート系団体では全ての活動を停止せざるを得ない状況で。そんな中で、スコットランド政府から助成金をいただきました。目的は、活動をデジタル化していくことへのサポート。それで多くの団体は、素早く自分たちの活動をデジタルで行えるような形にしていったんですね。

 

社会関与型のアートは特に著しかった。例えばケアホームや老人ホームは、本当に外から人が入れないような状況になっていましたし、サポート・ケアが必要な人で家に滞在していル人もいて、孤立してしまっている人たちがたくさんいた。そんな方たちに例えば作品、音楽ワークショップ、絵画ワークショップにオンラインで参加できるように画材の提供、機会の提供をみんな一生懸命やっていて、孤独・孤立化を防ぐべくいろいろ活動していました。

 

今回、デジタルなプラットフォームにワークショップ自体が移行することによって参加できるようになった人たちがたくさんいたと言います。これまで手が届かなかった人たちが入ってこれるようになったんですね。

Q2: Flamesのメンバーに来る人、参加しに来る人には傾向がありますか?

年収・性別・人種などに多様性の確保について難しさを感じることはあるでしょうか? 

 

参加してくれる方はだいたい女性ですね。トランスジェンダーの方もいます。社会的経済的な背景は本当に多様で、貧困地域から、また経済的に豊かなところから来ている人たちもいたりさまざま。ただ女性がほぼなので、どこかでFlamesのゲリラセッションを男性だけ対象という形で、1回やってみるべきかなと思っております。

Q3:作品に対して、評価する時の難しさはありますか?

 

ローナ:評価は本当に難しいなと思っています。こういったプロジェクトは具体的な何かがあるわけではないので評価はやっぱり難しい。

どちらかというと、プロジェクトの目指すところは感情や気持ちが主ですよね。ただ評価するとなると、数字や具体的な何かを出してこいという話に、いつもなってしまいます。

 

助成を出すクリエイティブスコットランドとしては、評価のポイントは非常にゆるく設定してます。もちろん数字を出してくれというところありますが、基本的にはプロジェクトを実行する側に自分たちで評価してもらっています。助成を受け取った団体の方で、自分たちがどうやったのかを評価してもらって、数というよりも質で評価していくことを重きに置いてます。

ローナさん、フィオナさん、ラボ参加者の皆さん、ありがとうございました!

(文:熊谷麻那)

助成:公益財団法人仙台市市民文化事業団 
   多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業