2022.08.30

【報告】コミュニティダンス・ファシリテーター(指導者)向け実践講座「サマー・ダンス・ラボ」

多様な人との多様なダンスを可能にするダンスジャンル「コミュニティダンス」が、近年日本でも注目されています。

 

赤ちゃんから高齢者まで、年齢や障害、国籍など問わず、すべての人が、自分だけのからだで表現したり、創造したり、コミュニケートしたり、心身を整えたり…。決められた振り付けで踊るのではなく、アーティスト/ファシリテーターが、参加者の個性を活かし創造性を引き出し、共に表現を創っていきます。

 

英国では1970年代からコミュニティダンスが盛んに広がったそうです。そんな英国・スコットランドを拠点に活動する、ダンサー・振付家の小林あやさんを仙台に招聘し、8月10日・11日の2日間、ファシリテーター(指導者)向けのワークショップを開催しました。


1日目:

参加者は、すでにコミュニティダンス活動に取り組んでいる方、ダンサーとしてダンスを踊ってきた方、子どもたちとダンスや音楽活動をしている方、障がいを持った方の自立訓練事業所で働いている方、年配者の健康促進やエクササイズ活動に取り組む方など、実に多様なフィールドで活動する方たちが集まりました。

 

まずあやさんから、コミュニティダンス活動の中で大切にしていることについて、お話がありました。「ソマティック」という概念について。ダンスを観る人にイマジネーションをかきたててもらうこと、美しいものを作品にしていくということ。クオリティを大事に、そのためにはフレームをしっかりつくること。シンプルにタスクを提示すること…。

 

それから、円になったままで、シアターゲームのアクティビティをさまざま楽しみました。自分の名前をおもしろく発語してそれに動きを付けたり、クラゲやチキン、ロボットの動きで動いたり(”チキン”が出てくるのはイギリス的ですね)、クラップ回しゲームをしたり。簡単なゲームから始まり、少しずつルールを変えていきます。

床と仲良くなるワーク。なるべく床を離れずに動く

動きのイメージを伝えふくらませるために、あやさんは言葉を豊かに使いわけ、重ねていきます。

 

それから皆で書道の動画を観ました。筆の動き、はらいや止め、跳ねといった動きをじっくり観察したのち、筆使いのテクスチャを身体で表現してみます。「空中を切る」「空中に書く」など、あやさんから出されたお題について、会場の端から端まで動くというワークをしました。

 

2人1組のペアワークは、彫刻ワーク。1人が彫刻になって、もう1人が好きな形に相手の身体を動かしていきます。彫刻になった人は、自分の身体が思いもよらない形になっていくのが面白そうでした。

 

終了後のディスカッションも充実した時間となりました。「”自由に動く”というのは実はとても難しいワーク。自由にと言われたら私もとても苦手。そうではなくて、とにかくシンプルに、お題を出し動いてみる。それでも、10人いたら10通りの動きがある」とあやさん。ファシリテーションで、多様な人の身体から動きを引き出すヒントが散りばめられていました。


2日目:

午後は、同時並行で開催した「50歳から輝くステージ~ダンスワークショップ」にも参加した受講生の皆さん。夜のラボの冒頭は、時間をかけて、参加者の皆さんそれぞれから、コミュニティダンス活動で課題になっていることなどの共有があり、それに対してあやさんが1つ1つ応答していきました。

 

例えば、

  • 親子を対象とした活動をどうつくるか?

空間というものはとてもセンシティブ。子どもがメインに活動する場合も、どう大人をinviteし(引きつけ)、entertain(興じさせる)するか、空間すべてをinclusive(包合)していくことが大切。

 

  • 作品のフレームをどうつくるか?

どう転んでもワークするように(例えば参加者の方が来ないとか)、工夫の連続であること。

 

アート活動では、参加者もファシリテーターもそれぞれがトライすることが大事。そして、舞台では参加者1人1人に照明が当たり、”Liftされる”(持ち上げられる)ことがとても大切なこと。あやさんからエッセンスが伝えられていきます。

 

シェアリングのあとは、徐々に身体を動かしていきます。イメージをふくらませること、イメージを楽しむことのワークもさまざま行いました。身体が粘土やパンになったように力を抜いていったり、シャボン玉のように、光のように、みえてくるイメージを身体の動きにしていったり。

身体のフォームと空間とアンサンブルで遊ぶ

同じ動きをしながらも3つの違うイメージをつかみ、いつもとちょっと違う感じで話す練習もしました。世界観を、言葉と身体で伝えること。参加者それぞれに違う表現があり、そして当然ですが違う身体、声、雰囲気、リズム等々がある。その人のユニークな点をつかむこと、助長させることといった視点も得られたのではないかと思います。

 

2日目も、さまざまなワークを行い、体得していく時間となりました。最後の振り返りをしたあとも、皆さん話し足りない!といったようで、しばらくあちらこちらで話の花が咲いていました。


2日間の講座を終えて、コミュニティダンス活動やファシリテーターについて、またぐっと理解が深まったように思います。コミュニティダンスの参加者が表現したいこと、各人の欲求を引き出していく一方で、ファシリテーターは、アーティストとして表現したいことを深化させていく。そしてそれらを薄絹のように重ね合わせ、活動や作品を創っていくこと。あらためて整理することができました。

 

この、”欲求”というのは、実は簡単なようで難しいところでもあると思います。自分が”本当に欲しているものは何か、それをどうコミュニティダンスの場で表出していくのか。表出を必ずしも欲していない場合もあるでしょうし、バランスやハーモニーも問われるところでしょう。

 

あやさんがワークショップ中に何度も口にした「ケアする」という言葉が印象的でした。相手を、自分を、その場をケアしていくこと。参加者のお一方は、「ホスピタリティを持つ」とも言い添えてくれました。

 

折しも、仙台・宮城でコミュニティダンス活動を創ってきた先輩と話をしていて、今後ますます、私たちの身体性を取り戻す、感じる活動が大切になってくるであろうと痛感したところでした。デジタル化が加速し、人や自然とのつながりもどんどん希薄化する中、自分の”いまここ”、他者、リアルな空間を感じられる手触りのある時間、それがコミュニティダンスには十二分に含まれるのではないでしょうか。

 

参加者の皆さんがそれぞれに、また協働して、仙台・宮城でコミュニティダンスの活動を拓いていくことを願って。仙台に来てくれたあやさん、本当にありがとうございました。

小林あやさん(前列中央)と参加者の皆さんと

✳︎あやさんがワークショップ中に紹介してくださった、英国のローズマリー・リーさんのコミュニティダンス作品をいくつか紹介します。

文 : PLAY ART!せんだい 大河原芙由子

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